大規模修繕工事の時期と周期について
大規模修繕工事とは、足場を組み、防水工事や外壁塗装を施工することを言います。
一般的に12年周期で行い12年、24年、36年と続けていきます。
果たしてこの工事周期は適切なのでしょうか。
大規模修繕の工事周期が12年の理由
多くのマンションで取り入れられている12年という周期は国土交通省が出している長期修繕計画ガイドラインに従っているものです。
長期修繕計画の策定
計画期間は、新築マンションの場合は、30年以上とし、既存マンションの場合は、 25年以上とします。
(中略)
外壁の塗装や屋上防水など を行う大規模修繕工事の周期が12年程度ですので、見直し時には、これが2回含まれる期間以上とします。
-長期修繕計画作成ガイドラインコメント
このガイドラインに基づいた長期修繕計画により、大規模修繕工事が12年サイクルで行われているのが現状です。
大規模修繕の周期のカラクリ
この国土交通省が発表している「標準修繕周期」には多少のカラクリが存在しています。
国土交通省はマンション管理会社等からの報告も参考資料として標準修繕周期を出しています。
大規模修繕工事の受注をしているのはマンション管理会社ですから、当然、修繕周期は短い方を望みます。
マンション管理会社から国土交通省に提出する書類が短い周期であるために、実際に必要な修繕周期より短い「標準修繕周期」が国土交通省から発表されることに繋がっています。
12年周期はあくまでガイドライン
12年周期はあくまでもガイドラインであり、マンションの個別事情によってそのサイクルは異なります。
例えば、海辺のマンションであれば塩害があり外壁は傷むのが早いでしょう。近くに工場がある場合も同様です。
最近の例では、外壁洗浄をしているマンションもあり、そういったマンションでは外壁塗装の時期を遅らせても問題ないことが多いです。
ただ、外壁塗装だけ15年周期にして、他を12年周期にすることはコストパフォーマンスが悪いので通常しません。
大規模修繕で行われる工事と周期の関係
大規模修繕工事に多大な費用が掛かる理由は足場を組む費用が大きいからであり、短期間で2回も足場を組む工事をするようなことは費用が掛かるためまずありません。
また、足場を必要とする工事内容の中において、一つだけグレードの高い仕様にして耐用年数を長期化したとしても、他の工事の修繕周期に引っ張られて、結局は同時期に工事をすることになります。
そのマンション内で足場を必要とする工事は何なのかといったことは把握する必要があるでしょう。
一般的な大規模修繕の工事内容としては、
- 1回目:防水工事、外壁塗装、鉄部塗装
- 2回目:1回目の内容に加え、前後にエレベーター更新、機械式駐車場更新等
- 3回目:1回目の内容に加え、前後に各戸サッシ、玄関扉、手すりの交換、給排水管の更新
となっています。
「管理会社の言いなりにならない事」が管理組合に必要
大規模修繕は何年ごとに行うのか、といった周期だけでなく、どのような工事をいつ行うのかを把握しておき、マンション管理会社の言いなりにならないことが管理組合に必要なことです。
例えば、エレベーターの更新や機械式駐車場の更新に関しては、保守メーカーが非常に早い時期に「更新時期が来ている」といった通知を出してきます。
それは、万が一のことがあった場合の責任逃れの為であり、それを鵜呑みにして更新をすることはオススメしません。
管理組合にも責任があり難しい判断ですが、劣化内容を十分に確認のうえ更新の検討を行うことが望ましいです。
管理会社の言いなりにならず、管理も適切に行われているのであれば、劣化診断に基づき修繕周期を遅らせる判断も管理組合には必要なことです。
長期修繕計画策定にあたって
最後に長期修繕計画を策定するにあたって管理組合に気をつけていただきたいことをお伝えします。
それは、長期修繕計画書を定めるのはあくまで管理組合であり管理会社ではないという点です。
管理会社は標準周期等を基に長期修繕計画「案」を作成するのであって、それが絶対というものではありません。
この長期修繕計画「案」を基に、理事会等でそのマンションの長期修繕計画書を作成して総会に上程して承認を得ることによって初めて長期修繕計画書が出来上がります。
細かいところですが、長期修繕計画に従い工事を行っていく為、この手続きを省略してしまいますと、マンション管理会社の言いなりで工事が施行されていくことに繋がります。
マンション管理会社は自らの判断で修繕時期を遅らせることはありません。
利益面での判断もありますし、雨漏り等が発生した場合の責任問題にも繋がる為、短い修繕周期の提案がなされます。出来る限り、長期修繕計画は管理組合で作成することが望ましいと思います。
中には長期修繕計画の見直し時期に長期修繕計画委員会というものを立ち上げて作成しているマンションも存在します。
専門的で難しい長期修繕計画ですが、マンション内に工事関係に詳しい方がいらっしゃればそういう委員会の立ち上げも検討してはいかがでしょうか。
最後に
最近では、一般社団法人マンション大規模修繕協議会が、大規模修繕の周期を15年で提唱しています。
しかし、一番大切なことは大規模修繕工事のサイクルが12年であれ15年であれ、注文する者は、自分達(管理組合)という認識を持って工事を発注することです。
緊急な工事であれば12年より短くなるでしょうし、劣化が少なければ15年持つでしょう。
全ての工事に言えることですが、主体は管理組合であり、それをサポートする者がマンション管理会社です。
工事瑕疵を除く工事での不具合や、管理組合の資金不足の責任を負うのは管理組合であり、管理会社は助けてくれません。
大規模修繕工事の基となる長期修繕計画の作成から業者の選定までしっかりと管理組合で取り組み、マンションの資産価値の向上を図ることをご提案致します。