大規模修繕の反対意見を集約するための3つの方法
マンションの大規模修繕工事を決定するのは、言うまでもなく管理組合の総会です。そこに上程される大規模修繕工事案は、理事会が決定し、総会資料に議案として載せます。
マンションによっては、理事会だけで決めるのは大変ということで「大規模修繕委員会」を設置し、理事会と一部メンバーを共有して意思疎通を図りながら、計画案を立案、総会に諮る。簡単に言えばそのような流れでしょうが、総会に諮るまでの道のりは決して平坦ではなく、対立する意見、反対意見も必ず存在します。
そこで区分所有者の意思を集約して、皆のコンセンサスを得て工事に漕ぎつけるために3つの方法を紹介します。
1.結論を急がない、余裕をもって準備を進める
これまで何のトラブルもない組合運営をしてきたマンションが、こと大規模修繕工事となるとなかなか結論が出ない。よくあることですが、本来、それでいいと思います。
大規模修繕工事は多額の費用がかかる工事です。特別に争いがなくても慎重になるのは当然であり、特に、組合員から預かった修繕積立金を一気に吐き出し、場合によっては銀行からの借り入れ、一時金の徴収を決めなければならない、理事会メンバーの苦悩は、決して小さいものではありません。
ある組合での大規模修繕工事の事例
管理組合が第三者との紛争に巻き込まれ、損害賠償請求訴訟をすることになりました。管理費に余裕がなく、弁護士を立てずに管理会社の支援の下で本人訴訟をすることになりました。
区分所有者の中には弁護士さんもいましたが、訴訟を提起することを決議する臨時総会は全く紛糾せず。委任状も含めて100%、全員一致で訴訟に臨みました。50戸ほどのマンションでしたが、本当に円満に運営されていたマンションでした。
このマンションで大規模修繕工事をしました。外壁補修、共用の給排水管・貯水槽の更新、内装のリニュアルなどかなり大がかりな工事。円満なマンションですからさしたる争いもなかったのですが、建物劣化診断を実施してから工事に漕ぎつけるまで、4年かかりました。
大規模修繕工事なのですが、理事会では、最初から小さな工事に関する議論が噴出、なかなか前に進まない。しかし、それを誰も咎めず、急がず。
小さな論点でも一つ一つ丁寧に審議し、一歩一歩前に進んだ結果が、4年の歳月です。
直ちに工事をしなければならないギリギリの状態になっていたとしたら、こうはいかなかったでしょう。議論がなかなか進まず4年掛かったのではなくて、4年前から準備を始めて十分に審議を尽くしたというべきなのです。
十分な準備期間を設ける。これが大規模修繕工事を成功させる第1のポイントであると思います。
2.異論を排斥せず十分に耳を傾ける
大規模改修工事を実施するに当たって、区分所有者間で紛糾してどうにもならなくなる。その原因の典型が、異論を弾劾し排斥しようとすることです。理事会内でそのような事態に陥ることもありますし、理事会VS区分所有者(多くのケースは元理事会メンバー)のこともあります。大規模修繕工事の立案を始めると、まずは、入口から議論となるはずです。
- 「まもなく築12年を迎えます。外壁工事などの補修や各設備の更新を考える時期だと思います」
- 「いや、そんなに老朽化しているとは思えない。あそこのマンションが外壁を やったのは15年目だったよ。まだ早いんじゃないの?」
どちらが正しいのでしょうか?
前者は「予防保全」の考え方を重視し建物に起因する危険や故障を未然に防ぎ、早め早めの対応をする考え方。
後者は、それに加えて、経済的側面も重視し、工事スパンを長くして、“マンションの一生”の中での管理コストを軽減する考え方。
どちらにも一理あり、間違いではないのです。
間違っているのは、いずれか一方の意見を間違いだと決めつける態度です。一理ある見解を排斥しようとするのですから、排斥される側が黙っているはずはない。そこに、深い溝が生まれ、泥沼にはまり込む、これが、大規模修繕工事が決まらない典型的パターンといえます。
理事会のメンバーが、大規模修繕委員会のメンバーが、あるいは一般の区分 所有者が意見を提示したら、それを、自分の出した意見と同等に扱い、全ての意見を平等に検討・検証する。それぞれの意見のメリット・デメリットを出して、また、自分の見解に固執することなく、むしろ反対意見の美点を見いだす気持ちを持って議論する。このようなプロセスには時間がかかり過ぎると思われがちですが、逆です。自分の見解に固執する人達には何も決められません。幾ら理屈をこねたって、相手方にも一理あるのですから。
日々の生活の安心・安全を確保し、大事な資産の価値を維持する。目標はこの一点にあるはずです。
3.泥沼にはまったら、一旦、リセットしてみる
残念ながら、大規模修繕工事の議論が迷路に入ってしまい、どうにもならなくなるということもあるでしょう。その時には、何らかの手段で一旦リセットして、振り出しに戻すことが必要かも知れません。リセットの仕方は、それぞれのマンション固有の事情にもよると思いますが、以下の様な方法があります。
大規模修繕をリードする第三者を選任すること
設計事務所やマンション管理士など、区分所有者以外の方を大規模修繕工事のコンサルタントに選任して、工事の立案・意見集約等の業務を委託します。当初から意思の決定が難航することが予想される場合には、初めからコンサルタントを選任することもあります。
理事会の体制を変更する
大規模修繕工事は単年度で全てを審議・決定することが困難な、マンションの大事業です。役員輪番制、特に、1年任期の役員制度を採用しているマンションでは、おそらく修繕委員会を立ち上げるのでしょうが、意思の集約が難しい面があります
大規模修繕工事の意思決定のために
大規模修繕工事以外の案件でも輪番制の限界を感じているマンションであれば、この機会に思い切って輪番制を廃止し、立候補制に転換することも一つの方法です。
今年度の役員の提案を過去の役員達が批難・弾劾する、それは、自分たちが役員であった時に随分「いじめられた」から。こんな負の連鎖が続く組合でも、案外、何となくいつも中立的で皆から好かれ尊敬される、穏やかな紳士・ご婦人がいるものです。
その方に理事長になってもらって、新しい役員会を作り、そのリーダーショップにより大規模修繕工事を実現する。そんな方法をとった組合もあります。
マンションが共有資産である以上、時には決断も必要ですが、じっくりと話あって進める必要があるのが大規模修繕工事です。