大規模修繕に相見積は必須!見積取得の注意点や共通仕様を作成する方法
マンションの修繕工事の中で一番コストがかかるのが大規模修繕です。
小さいマンションでも数千万円、大きなマンションでは億を超える工事金額になります。
大規模修繕は、マンションを良好な状態で長く維持していくために重要な工事ですが、屋上防水や外壁修繕、塗装作業など専門性が高いため、見積の精査に二の足を踏んでしまう管理組合も多いことでしょう。
そのため、管理会社からのみ見積を任せてしまいがちです。
ですが、大規模修繕では必ず管理組合自身で相見積を取得するべきです。
もちろん管理会社に任せるよりも手間がかかりますが、相見積を取得するだけでも費用面や品質面などで管理組合に大きなメリットが生まれます。
今回は大規模修繕の相見積をクローズアップして解説します。
複雑な見積だからこそ比較できるように相見積が必要
大規模修繕は、足場架設、塗装、防水、シーリングなど多くの工程があるので、見積の項目も多岐に渡ります。
見積は数ページに分かれ、それを確認するだけでも大変です。
また、記載されている内容は、足場架設の人工や数量、塗料の㎡数など日常生活では馴染まないものであり、専門知識のない管理組合役員では精査が難しいというのが正直なところです。
ですが、精査が難しいからとそのまま承認してしまうと業者の言い値で発注することになりかねません。
これを解決する方法が相見積です。
複数業者から見積を取得して比較検討することで管理組合として適正な金額を把握できるようになります。例えば以下の例をご覧ください。
A社 | B社 | C社 | |
---|---|---|---|
足場 | 1,100万円 | 800万円 | 850万円 |
塗装 | 250万円 | 200万円 | 400万円 |
防水 | 1400万円 | 1400万円 | 1300万円 |
合計 | 2750 | 2400 | 2550万円 |
もしA社のみから見積を取得していたとすると、足場の費用が他社に比べて非常に高額であることを知ることは出来ません。
3社を比較すると合計としてはB社が一番安価ですが、防水ではC社が一番安価ですので、B社に防水の費用をC社に合わせる交渉が出来るようになります。
業者と金額交渉を行う際、他社は〇〇円ですという情報は大きな武器になります。
反対に何の根拠もなく、漠然と見積金額を下げてくださいと伝えても、業者側もどこまで減額を頑張れば良いのか分からず、具体的な回答をしにくくなります。
業者の比較は組合員を納得させる必須の材料
大規模修繕を主体的に検討するのは管理組合の役員であり、それ以外の組合員は総会や説明会など断片的なタイミングで情報を得るようになります。
得られる情報やタイミングが限られている分、しっかりとした検討がなされた結果として、総会の議案として上程されているというスタンスが伝わるようにしなければなりません。
数千万円という大きな工事を管理会社任せの見積のみで比較検討をしていない状態では、役員以外の組合員から理解を得るのは難しいでしょう。
「公平な条件の もと複数社の見積を比較検討した結果、一番優位であった業者を選定し、更に他社に比べて割高と感じられた項目は減額交渉をしました。」
と伝えれば、総会に出席する組合員の理解を得られやすくなります。
相見積取得によって生じる品質面の差
相見積の取得を自主的に行うことで、各施工会社と折衝することで管理組合は様々な情報や知識を得られます。
この施工会社との折衝をして知識を得ることで品質面に大きな差が表れます。
工事を行う側から考えたとき、知識が乏しい住民に見られながら工事をするのと知識を有している住民に見られながら工事をするのでは、後者の方が緊張感は高まるでしょう。
大規模修繕は数ヶ月間という長い工程であり、暑い日もあれば寒い日もあります。
基本的に敢えて手を抜く業者いませんが、数多くの職人が出入りすることになりますので、最低限の知識を有している住民が見ているというのは工事品質を安定させる意味で一役を買うでしょう。
大規模修繕の見積取得で注意する点
大規模修繕は項目が多岐に渡ります。また、様々な修繕方法があるので、同一条件で複数社から見積を取得するのが難しいという点は注意すべきです。
例えば、塗装工事を挙げると、塗装すべきか様子見とするか各社で判断が分かれてしまう場合があります。
- A社は一部塗装で250万円
- B社は一部塗装で200万円
- C社は全部塗装で400万円
であった場合、複数社が提案している一部塗装の方に妥当性があると考えられますが、施工範囲が違いますので金額面でC社が高いとは言い切れなくなります。
できるだけ条件は揃えてもらい、仕様が違うのであれば、それとは別に提案仕様の見積を取得するようにしましょう。
施工会社とは別の設計会社を入れるという選択
同一条件の見積を取得するためにはどのようにしたら良いか。
それには、事前に工事の仕様が決めることで解決します。「この方法でこの範囲を施工する」という条件を決めてから各社に見積を依頼することで同一条件での見積比較が可能になります。
この仕様(見積条件)を決めるためには、設計監理会社(コンサル)を施工会社とは別に選択する必要があります。
大規模修繕では、見積条件を作る設計会社と施工会社を分ける「設計監理方式」と施工会社へ一本化する「責任施工方式」があります。
設計監理方式とは
「設計監理方式」のメリットは、工事見積の比較検討がしやすく施工業者選択の透明性が高まる点です。反対にデメリットは、設計監理会社の費用が施工とは別にかかる点です。
責任施工方式とは
「責任施工方式」のメリットは、設計監理会社の費用が発生しない点と施工後の責任が明確になる点です。
「設計監理方式」の場合、施工後の不具合について、施工内容(見積内容)を決めた設計会社の責任なのか、施工会社の施工ミスによる責任なのかでトラブルになるケースもあります。
一長一短ですので、管理組合としてどちらの方式が良いかしっかりと検討するようにしましょう。
設計監理方式を使わずに共通仕様の見積を作成する方法
共通仕様の見積を作るためには、施工会社とは別に監理会社をいれなければいけないかと、そうではありません。
コンサルを入れる設計監理方式ではなくても共通仕様の見積を作成する方法は2つあります。
1.管理会社の見積を利用する
多くのマンションでは大規模修繕は管理会社の提案から始まります。管理会社に建物診断をしてもらい、その上で見積を作成してもらいます。
この見積を共通仕様として利用することも可能です。
管理会社の顔を立てているとうい点で、仕様に対して組合員にも理解を得られやすいですし無駄な費用もかかりません。
2.施工会社に作成させる
管理会社を工事からは外したいというケースもあります。そのような場合には施工会社に建物診断、見積作成を依頼し、その見積を共通仕様のベースとして利用することも可能です。
信頼できる共通工事仕様なのか?
よく特定の業者(もしくは仕様を作成した施工会社)が有利になるように、「数量をふかす」というようなことが言われます。
しかし、信頼できる施工会社に見積を依頼すれば、図面から数量を拾うという作業をします。そのため、仮に特定の業者が有利になるように数量を多く見積っているような仕様であれば、施工会社の積算担当は気づきます。
見積作成と監理業務を分ける組合も
また最近は見積作成・業者選定を行うコンサルと、大規模修繕が正しく実施されているか確認する監理業務を行うコンサルを分ける管理組合もあります。
大規模修繕の進め方は1つではありません。ぜひ知恵を絞って大切な修繕金を無駄なしない工夫を行ってください。
必ず相見積を取得して比較検討を
大規模修繕は、マンションの一大イベントであり、多くの住民が関心を寄せています。
そのため、安易に施工会社や工事方式を決定してしまうと、住民の理解が得られず、トラブルに発展する恐れがあります。
大規模修繕を円滑に進めるためには、少し面倒でも、必ず相見積を取得して比較検討してみてください。