大規模修繕における一時金のリスク
大規模修繕工事は、本来、建物の劣化状況や必要性によってその周期は異なります。そのため、それぞれのマンションによってその実施時期は異なってくるのが常です。
国土交通省の定める長期修繕計画表作成のガイドラインでは12年周期で大規模修繕工事を実施することが目安として定められています。
しかし、大手管理会社の中でも大規模修繕工事の提案時期を12年ごとと定めていたり、初めから10年ごとと定めていたり管理会社、管理組合によってまちまちです。
実際には1回目の大規模修繕工事を検討する際に建物診断や劣化診断を先行して行い、その結果に応じて年数を定めているのが実情です。
長期修繕計画はマンションの羅針盤!
長期修繕計画表は基本的には以下の3つの方法があります。
- 国土交通省の定める長期修繕計画表作成のガイドラインを使用して作成する場合
- 実際の設備の劣化状況を踏まえ修繕価格を勘案して作成する場合
- 両方を基礎として作成する場合
前者は新築マンション、後者は既存のマンションで長期修繕計画を更新する場合に多く用いられます。
修繕項目は、漏れや見落としがない限り基本的には変わりません。
そのため長期修繕計画は、マンションにはどのような修繕が必要かを示す羅針盤となります。
この長期修繕計画を主として考え、突発的な事故や日常的なメンテナンスを加えていくことが重要です。その一方で、管理会社や長期修繕計画を作成する会社により、修繕費用や修繕周期には差異があることを認識しておく必要があります。
長期修繕計画に基づく修繕積立金の重要性
長期修繕計画が定めると、合わせて必ず資金計画を設定する必要があります。
例えば総戸数が100戸で専有部分面積がすべて同じのマンションが仮にあった場合、竣工後12年目に大規模修繕工事を行うことを前提として、大規模修繕工事が長期修繕計画表上で一戸当たり100万円修繕に必要だとすると、12年目までに最低でも1億円の積み立てが必要となります。
新築マンションでは修繕積立一時金や修繕積立基金といった新築引き渡し時の一時的な金額の積み立てが行われていることが一般的です。
しかし、仮にそれがなかった場合、1戸が1年当り83,333円、月当り6,944円を最低でも積み立てなければなりません。
大規模修繕工事だけであればこれで事足りますが、立地条件によっては5年前後でマンション内の鉄部は錆びたり、8年ごとに計量法に基づき、水道メーターを取り替えたり、10年ごとに消火器を取り替えたり、同時期に給水ポンプに不具合が出たり・・・
と修繕項目はそれ以外にもたくさん挙げられます。
これらのマンションの修繕工事に備えて、修繕積立金は計画的に積立ていく必要があり、長期修繕計画を練りしっかりと積み立てていくことが非常に重要です。
しかし目算があまく、修繕積立金が足りない場合や毎月の修繕積立金が必要な額よりも少ない場合、大規模修繕工事やその他大きな工事時に一時金を徴収する場合があります。
大規模修繕における一時金のリスクの事例紹介
管理会社や管理組合によっても異なりますが、大規模修繕工事の実施時やその他工事実施時に一時金を徴収する組合があります。
ある管理組合の事例を紹介します。
その管理組合では月々の積立金額を抑えるため、大規模修繕工事時に50万円を一時徴収する方向で大規模修繕工事までの組合運営をしてきました。
修繕積立金低い水準で推移していることもあり、管理費、修繕積立金の未収納金(滞納金)もなく、大規模修繕工事の検討時期を迎えました。
大規模修繕工事の仕様や範囲を細かく決めて、臨時集会(総会)を開催し、大規模修繕工事の実施に関する議案と一時金徴収に関する議案の両方を審議することとなりましたが、両方承認されたものの、後味の悪い結果を招きました。
その理由が、一時金の未収が複数件で発生したため、工事業者への支払が一時的に未払いとなったためです。
これまで管理組合の会計状況は客観的に見て極めてクリーンでしたが、いざ一時金徴収となると、竣工後12年の歳月を経たため、各戸の家計状況が変わり、物理的に支払いが不可能な住戸が複数発生しました。
結果的に管理組合の会計上は存在するお金の支払いが実際の現金として用意できず、工事業者へお詫びをしたうえで支払遅延(未払い)が発生することとなりました。
その後管理組合には慢性的な未収金が発生することとなりその回収対応に現在も追われています。
一時的でも未払い金が認められない場合は管理組合用のフリーローン(借金)を組む場合もあります。
しかし、その利率にもよりますが、積み立てられた資金が利息として金融機関に徴収されてしまい、不必要な支出を生むことにつながります。
一時金のリスクと計画的積立ての重要性
先述した例のようにならないための対策は2つあります。
一つは一時金を徴収しないために徴収金額を設定しておく。もしくは一時金を徴収することを数年前から継続して広報し、徴収時期を明らかにしておき確実な徴収を行うことが挙げられます。
大規模修繕工事における一時金徴収は、普段の各戸の家計を緩和する一方で、管理組合会計の先行きを見づらくするもろ刃の剣と言えます。
そのため、計画的な積み立てが重要となってきます。また、管理組合の修繕は大規模修繕工事の先にも数多くあるという認識を日常的に認識しておく必要があります。