大規模修繕工事で検討できる!長期優良住宅化リフォーム推進事業とは?
新築から長年経過した、いわゆる「高経年マンション」が今後はどんどん増えていきます。
築40年超のマンションは、平成30(2018)年末には81.4万戸だったのが、10年後の令和10(2028)年末には約2.4倍の197.8万戸、更に20年後の令和20(2038)年末には約4.5倍の366.8万戸となり、今後高経年マンションが急増する見込みです。
そのような中、建替えも容易でないため中々進まないマンションについて、長持ちさせる施策を国も継続的に検討しています。
今回は、その考えに沿っている興味深い施策として、「長期優良住宅化リフォーム推進事業」について確認していきます。
長期優良住宅化リフォーム推進事業とは
良質な住宅ストックの形成や、子育てしやすい生活環境の整備等を図るため、既存住宅の長寿命化や省エネ化等に資する性能向上リフォームや子育て世帯向け改修等に対する支援を行う国の事業です。
これらに関するリフォームを行うことで、リフォーム後の住宅が一定の性能基準を満たすことにより、国からの補助金が支給されるというもので、マンションと戸建住宅が対象となります。
補助対象の性能向上リフォーム工事の内容とともに、補助金を受けるための要件が3つありますので、それぞれ見ていきます。
性能向上リフォーム工事の内容
劣化対策や耐震性、省エネ対策など特定の性能項目を一定の基準まで向上させる工事が該当します。
具体的には、省エネルギー対策工事として、断熱サッシへの交換や、高効率給湯器への交換等が挙げられます。
また、耐震性の向上として耐力壁の増設や、構造躯体等への劣化対策として床下の防腐処理、維持管理・更新対応として、給排水管の更新なども該当するでしょう。
それ以外にもバリアフリー改修工事や、後述するインスペクションで指摘された補修なども該当します。
インスペクション(現況調査)の実施
リフォーム工事に先立ち、必ずインスペクションを実施する必要があります。
インスペクションとは、床・壁の傾きや雨漏り、白アリの被害など、日常生活上に支障があると考えられる劣化事象の有無を把握するための現況調査を行うことです。
劣化事象が見つかった場合、実施するリフォーム工事と同時に補修を行うか、または維持保全計画に点検・補修等の対応方法と対応時期の明記が必要となります。
インスペクションは原則、建築士である既存住宅状況調査技術者が実施する必要があります。
リフォーム後の住宅が一定の性能基準を満たすこと
構造躯体等の劣化対策や、耐震性及び省エネルギー対策の性能が確保されていることが必要となります。
具体的には以下の対策が必要になります。
性能項目 | 概要 | リフォーム後の性能 |
---|---|---|
躯体構造等の劣化対策 | 柱、床などの腐朽、蟻害の抑制 | 必須 |
耐震性 | 大地震でも倒壊しないよう耐震性の確保 | 必須 |
省エネルギー対策 | 窓や壁、床、天井などの断熱化 給湯器などの効率化 | 必須 |
維持管理・更新の容易性 | 給排水管を点検・清掃・交換しやすくする | 任意 |
高齢者等対策(共同住宅のみ) | バリアフリー化 | 任意 |
可変性(共同住宅のみ) | 将来の間取り変更等に対応しやすくする | 任意 |
リフォーム履歴と維持保全計画を作成すること
リフォーム工事の履歴として、工事内容を示す図面、工事写真等を作成し、保存することが必要となります。
住宅を長持ちさせるため、維持保全の期間(30年以上)について、少なくとも10年ごとに点検を実施する、維持保全計画を作成することが必要です。
補助金が支給されるケース
補助金が支給されるためには、前述の性能項目の中で、以下の要件を満たしていく必要があります。またそれぞれの要件で1戸あたりの補助限度額が変わってきます。
長期優良住宅(増改築)認定を取得しないものの、一定の性能向上が認められる場合
一定の性能向上として、劣化対策や耐震性、省エネルギー対策について、評価基準に適合するものが対象となります。
こちらの補助限度額は100万円/戸となります。
長期優良住宅(増改築)認定を取得した場合
所管行政庁から長期優良住宅の認定をうけているものが対象となります。
こちらは、全ての性能項目で、認定基準に適合することが必要となり、補助限度額は200万円/戸となります。
更に省エネルギー性能を高めた場合
前述の長期優良住宅の認定を受け、かつ、一次エネルギー消費量が省エネ基準比20%削減されるものが対象となり、補助限度額は250万円/戸となります。
推進事業活用のメリット
マンションで補助金が出る場合は、大規模修繕工事にも充当できるため、非常にメリットがあります。
しかしそれ以外にもメリットがありますので、確認していきます。
インスペクションの実施による状況確認
リフォーム前のインスペクションにより、現在の住まいの劣化状況等を確認でき、腐朽・蟻害箇所や雨漏り箇所など、住宅の傷んでいる部分を補修することができます。
構造躯体等の劣化対策及び耐震性の確保
構造躯体が長持ちすることにより、住宅の長期化に寄与するとともに、耐震性が確保されることにより、今後想定される地震に対する耐性が高まります。
住宅性能の向上
断熱性能が向上することにより、快適性が増すことや、冷暖房の効きが良くなって光熱費が軽減されることも期待できます。
また、耐用期間が比較的短い給排水管の日常点検や清掃、交換がしやすくなります。
リフォーム工事を進める上でのメリット
リフォーム計画の内容や工事結果について、一定の基準で審査されるものであるため、結果的には信用度が高いリフォーム工事となります。
また、本事業を実施しようとするリフォーム業者はHP上で公表されるうえ、国に登録されている住宅リフォーム事業者団体の構成員であることが確認できます。
さらに、リフォーム瑕疵保険加入の有無も確認できるため、リフォーム業者選びの参考になります。
マンションで実施の際の注意点
マンションは戸建てと違い、マンション全体でこれらを検討していくことが望まれます。
マンションの一部共用部分で検討するよりも、全体・全戸での実施を検討する方が公平性の観点はもとより、躯体や壁面、窓サッシにおける影響など、より効果が期待できます。
大規模修繕工事での実施
マンション全体での実施の検討が望ましいことから、大規模修繕工事の段階で合わせて実施することが望まれます。
躯体の性能向上や、窓や壁の断熱性能向上の施策は、足場を組んで実施していく必要もあることから、長期優良住宅化リフォームも同時に対応していくことが望まれます。
合意形成の重要性
長期優良住宅化リフォームを行うためには、通常の大規模修繕工事で検討していた内容に加え、バリアフリー化など付加価値を伴う工事を実施する場合、更にコストが掛かる改修工事が必要になってきます。
そのため、果たしてそこまでの改修工事をすべきかどうか、区分所有者の合意形成が重要になってきます。
また、今後のマンションの価値を高めていくという認識を、区分所有者が持っているかどうかで方向感が変わってくるため、非常に重要な論点です。
工事費用が修繕積立金を超過する可能性
付加価値を伴う工事を実施する場合は、長期修繕計画で想定していた工事に比べ、工事費用が余分に掛かってくる可能性が高くなります。そのため、想定していた修繕積立金を超過する可能性が出てきます。
よって、長期優良住宅としてマンションをよみがえらせるために、借入を行ってまで長期優良住宅化リフォームを実施するかどうかの検討が重要になってくると考えられます。
まとめ
今回は国の施策としての長期優良住宅化リフォーム推進事業の概要やメリット、更にマンションで実施する場合の注意点について考えてみました。
長期優良住宅化リフォーム推進事業は、マンションの長寿命化対策だけではなく、省エネルギー対策や子育て環境の整備など、未来を考えた国の住宅向け施策であると言えます。
補助金を獲得しながらも、自らのマンションの価値の維持・向上に直結する有効な手段だと考えられます。