タワーマンションの大規模修繕工事、どうやって進めていくのか?
都心部の利便性が高い駅近を中心に、タワーマンションが多く建っていますが、これらは2000年代〜2010年代に掛けて、急激に増えました。
背景としては、1997(平成9)年の都市計画法及び建築基準法の一部改正まで遡ります。
これにより、マンションの廊下や階段などの共用部分において容積率計算が除外され、更に容積率の緩和や、高層住居誘導地区が設けられ、タワーマンションを建てる法整備がなされました。
さらに建築技術や免振構造技術の向上も相まって、タワーマンションが一般的になってきています。
そのようなタワーマンションですが、中低層マンション同様、劣化が進行することから大規模修繕工事が必要となります。
タワーマンションの現状
タワーマンションとは、20階建て以上のマンションを指すと言われています。
今や、20階建て以上のマンションは珍しくなく、新築となるとタワーマンションとして建てられるケースも非常に多くなっています。
タワーマンションの歴史
少しタワーマンションの歴史について触れたいと思います。
最初に建ったタワーマンションはさいたま市にある与野ハウスと言われており、1976年に建築されたマンションであるため、旧耐震基準の中で建築されています。
与野ハウスは21階建ての高さ66mを誇る、当時高さでは日本最大の都市型マンションでした。
1976年に建設されて以降、1987年に大阪市にあるベル・パークシティに追い抜かれるまでの11年間、高さと階数でその座を守っていました。
今の国内最高は高さ209mの同じ大阪市にある2009年竣工のThe Kitahama(北浜タワー)であり、その差の開きに時の流れとともに、技術の進歩を感じます。
大規模修繕工事の実施状況
タワーマンションの大規模修繕工事の実施は、1回目の大規模修繕工事の実施時期は築14年程度と、一般的なファミリータイプのマンションに多い12年周期よりも長期化する傾向があるようです。
※マンションみらい価値研究所と三菱 UFJ リサーチ&コンサルティングの共同研究
「タワーマンションの管理データから紐解く住まいの実態や維持管理上の課題」
大和ライフネクスト株式会社 2021年5月31日リリース資料より
また、東京カンテイの2021年1月28日リリースによると、全国でのタワーマンションストック数は2020年12月末時点で1,389棟とされています。
中でも、築10年以内のマンションが501棟、2020年、2021年竣工がそれぞれ40棟、38棟であることから、10年超のマンションが差し引き810棟に及びます。
2000年代に建てられたタワーマンションが比較的多い事を考えると、このマンションが順次第1回の大規模修繕の時期に差し掛かることとなるでしょう。
そして、竣工数がピークである2000年代後半に建てられたタワーマンションの大規模修繕の時期が2022年にピークに来ると想定されており、首都圏1都3県のタワーマンションに限ってですが、年間70棟超はその時期に該当すると試算しています。
※東洋経済2018年12月8日号より
タワーマンションにおける管理費や修繕積立金の状況
タワーマンションにおける管理費や修繕積立金の状況も見ていきます。
直近の国土交通省の「マンション総合調査」によると、タワーマンションとその他のマンションにおける管理費、修繕積立金の平均額は表の様になっています。
単価ベースで記載していますが、タワーマンションの大規模修繕費用として数億〜10億台といった規模になるようです。
管理費(円) | 修繕積立金(円) | |||
戸あたり単価 | ㎡あたり単価 | 戸あたり単価 | ㎡あたり単価 | |
20階建以上 |
25,069 |
306 |
13,699 |
167 |
11~19階建 |
16,155 |
207 |
10,872 |
147 |
6~10階建 |
15,307 |
214 |
12,078 |
168 |
※国土交通省 平成30年度マンション総合調査結果 管理組合向け調査の結果より(平成31年4月26日公表)
表から、管理費は20階建以上のタワーマンションとそれ以外のマンションで大きく違いがあるのに対して、修繕積立金はさほど差はなく、むしろ㎡単価としては6〜10階建の方が多くなっています。
一方で、弊社のコラムでは頻出ですが、同じく国土交通省による修繕積立金ガイドランはこのようになっています。
※国土交通省 マンションの修繕積立金に関するガイドライン 令和3年9月改訂
管理組合の調査結果と、ガイドラインの時期がややずれがあるため、単純比較は難しいですが、近年の経済事情により、修繕積立金として確保しておく額は上がって来ています。
タワーマンションの大規模修繕の方法
タワーマンションの現状を確認したところで、タワーマンションの大規模修繕について確認したいと思います。
おもにタワーでない中低層のマンションと比較してどのような特徴があるのでしょうか。
タワーでない中低層マンションとの違い
タワーマンションの大規模修繕の実績がまだ少ないことから、工法やノウハウがまだ確立されていないと言われています。
高層階では気候の変動を大きく受けるうえ、高度な技術が要求されることから、難易度も中低層マンションと比べて非常に高いようです。
また、中低層マンションと比較して、規模的にもかなりの工事範囲となることから、資本が大きな大企業が手掛ける事例が多いようです。
特に新築時のゼネコンの子会社が大規模修繕工事もそのまま請け負う事が多いとされています。
タワーマンションの大規模修繕の工法
20階以上のマンションに対して、足場を組んで作業をすることは天候の変化や風の影響を受けるため、難しいでしょう。
足場を組むことが出来るのは低層階のみで、それ以上の高層階に対してはゴンドラや、柱を立てて設置する移動昇降式足場を使用します。
ゴンドラはビルの窓を清掃するようなイメージですが、それを屋上から吊り下げて順次工事をしていくという難易度も高いものとなります。
職人さんが足場の上を歩いて順番に工事していくのとイメージが大きく違いますが、風によるゴンドラ揺れで外壁やガラスを傷つけたりしないか、非常に慎重にやらなければならない工事となります。
もし落下物があったら非常に危険なので、高層マンション専門に大規模修繕工事のノウハウを貯めている大手の施工業者が中心に手掛けていくことになるのでしょう。
壁面の形状も独特なタワーマンションなので、工事においても相当の工夫が必要になってくるのは容易に想像できるところかと思います。
タワーマンションの大規模修繕における注意点
タワーマンションの大規模修繕になると、大規模であるとともに、関係者も多くなるため、様々な注意点が必要になってきます。
管理組合内の調整等のソフト面と、工事における影響等のハード面に分けて確認してみます。
ソフト面での注意点
大規模修繕工事は中低層マンション同様、タワーマンションでも管理組合での合意形成が重要になってくることには変わりがありません。
特に数百戸以上からなる区分所有者を抱える中、様々な価値観を持つ人達が管理組合に集まっていることとなります。
その上、低層階に商業施設や企業が入居している複合用途型のマンションである場合、意向をまとめていくには調整力が必要になってくると想定されます。
すると、理事会だけの力では難しい場合も想定され、管理会社による力量に頼らざるを得ない場合も発生するでしょう。
またその場合は、管理会社の意向をある程度踏まえる形となり、理事会や区分所有者の意向通りの方向に進むとも限りません。
さらに、大規模修繕費用の中に当該調整費用等が折り込まれると、見えづらい費用が発生する可能性もありそうです。
本来のデベロッパー系列の管理会社が握っている傾向が強いタワーマンションにとって、通常の管理費だけでなく、修繕積立金からも相応の費用が掛かることも想定されます。
ハード面での注意点
修繕工事を行う施工会社もまだタワーマンションの大規模修繕ノウハウを貯めながら実施というところもありますが、更に区分所有者や理事会では初めての所が多く、工事期間中に何が起こるか想定しえない所もあるでしょう。
そして、タワーマンションは工事範囲が大規模になるため、1年ぐらいを工事期間として想定しておく必要もあります。
「一体いつ終わるのか」という区分所有者の不満とともに、エントランスの出入りや、共用部分であるラウンジやロビー等の制限、工事中の音など、生活のしづらさからくるストレスも考えられます。
まとめ
2000年代〜2010年代に建てられた多くのタワーマンションが今後大規模修繕の時期に当たります。
ハード面における修繕工法も開発途上の中、難易度も高くなっています。
一方のソフト面において、理事会や管理組合としては中低層マンション同様、管理会社や施工会社に頼り切らずに確認していくことが非常に大切です。