マンションのEV充電設備の考え方と工事について

見ない日は無いぐらいに街中で見かけるようになった電気自動車(Electric Vehicle、以下略してEVと記載)ですが、日々我々がスマートフォンで充電するのと同様に、EV車両も充電しなければ走行することが出来ません。
スマートフォンの充電をし忘れた時や、バッテリーの残量がなかった時に気になってしまうのと同じく、EV所有者にとっては、運転においてバッテリーの残量が充分に無いと途中でエンストしてしまうこともあるため、充電が非常に重要になってきます。
大半がEVとなる未来、今回はマンションにおけるEV用充電設備の設置について考えていきたいと思います。
EV用充電設備の重要性
前述の通り、EV所有者としては、いつでもスムーズに充電できるよう、あらゆる所に充電設備があることを望んでいるでしょう。
設置が限定されていると、EVを購入してもバッテリーが心配で乗車出来ず、移動手段として機能しないためです。
そもそもEVを利用するためのインフラとしての充電設備の充実は重要ですが、それ以外における重要性も考えてみます。
EVの生産台数の増加
海外メーカーを中心にEVの生産台数が増加しています。中でもアメリカのテスラの販売シェアが大きくなっている様ですが、国別で言えばアメリカよりも中国の方が販売台数が近年では多くなっている様です。

一方の日本はまだまだガソリン車やハイブリッド車が中心で電気自動車は少数になっていますが、今後はEVに取って代わっていくと予想されます。
充電設備によるマンション価値の向上
EVの充電がしやすいマンションであると、利便性の観点から資産価値は向上することが考えられます。
逆に充電設備が当たり前になった将来には、設置がなされていないマンションにおいては、旧態依然の設備のままであるとして、価値の下落が考えられるかもしれません。
新築のマンションでは設置は一般的となっているものの、高経年化してきているマンションには、新築当初から充電設備が設置されている訳ではありません。
従って、後付けで充電施設の設置を急いでいる所ではあります。
後ほど紹介しますが、充電設備の設置を無料で行うと話題になったテラモーターズは、これらの設置を進めているようです。
クリーンエネルギーへの貢献
世界的な流れとして、世界中の人たちが意識していかなければならない脱炭素社会への推進による貢献度が高い点があります。
EVはガソリン車による二酸化炭素の排出という概念がないため、この流れに貢献できることもあり、意識の高い層や富裕層を中心にEVへの乗り換えが日本でも進みつつあります。
前述の通り、海外には出遅れている形ですが、国産メーカーも順次追随している状況にあります。
マンションにおけるEV充電設備設置の進め方
このような背景の中で、EVの普及と共に充電設備は今後急速に広まってくると考えられます。
この章ではどのような形でマンションの敷地内に充電設備の設置を考えれば良いのか、具体的に見ていきます。
充電設備の種類
まずは、充電設備の種類についてです。経済産業省が開示しているHPからですが、次のように大きくは普通充電と、急速充電の設備に区分されます。

家庭用電源でも活用ができる100Vコンセントによる普通充電は、充電までに時間が掛かるものの、設備本体自体が安く、逆にマンションや屋外駐車場に設置のポール型普通充電器については、数十万円のコストが掛かるものの、半分の時間で充電が出来ます。
さらに、おもにガソリンスタンドやサービスエリア等に設置の急速充電用設備は、短時間での充電が可能ですが、高額になる傾向があります。
設置業者の選定
どのような充電設備を設置するのかを検討しながら、その充電設備を取り扱っている施工業者に確認の上、設置する事になります。
また、間に担当の管理会社を挟むことでコスト増が発生する場合には、直接施工業者と相談することも必要になります。
その場合は管理会社の中抜けが発生し、後々のフォローやメンテナンス対応において支障をきたす可能性もあるので、予め管理会社経由でお願いするのか、管理組合で対応するのか等、十分検討しておく必要がありそうです。
導入方法
導入に向けての動きは、管理組合内での合意が取れた後に工事になるかと考えられます。
現地調査を施工業者と行う際には、どこに設置するのか、またどのタイプの充電設備が適切なのか等、施工業者や専門家と考えていく必要があります。
設置場所によっては、充電設備に加えて、充電設備までの給電用の配線工事費用が掛かってくるため、見積もりを精緻に出して貰う必要があります。
また、充電設備は自治体や国の補助金対象となっている場合が多いため、資金が不足しがちな管理組合としては、補助金獲得を狙っていく事は非常に重要であると考えられます。
さらに、管理組合の手間を省く観点から、そのような補助金獲得を上手く実施してくれる施工業者にお願いすることも重要です。
そして、補助金を受領できたとしても管理組合の中での持ち出しはどれぐらいなのか、また1回の充電にいくらぐらい徴収するのかなど、収益シミュレーションをしていく必要があります。
テラモーターズ社の例
いち早く充電設備が未設置のマンションに対して、無料で導入することに対応したのがベンチャー企業であるテラモーターズ社です。

2022年4月25日のマンション管理新聞において、「EV充電設備を無料で設置」と紹介され、話題を呼びました。
分譲マンションは元より、様々な施設に対して導入を促進している企業であり、同社の設置をはじめ、今後設置が急拡大することが想定されます。
マンションにおけるEV充電設備設置の際の注意点
EV充電設備をマンションの敷地内に設置するにあたり、メリットは非常に多いものの、注意しながら設置しなければならない点もあります。
EV給電設備に関する最後の章にあたり、この辺りにも触れておきたいと思います。
管理組合内での合意形成
まずは何といっても管理組合内の合意形成がないと設置は進められないという点です。
区分所有者の中には、自動車を持たない方やガソリン車を所有している方、さらに住民の誰もEVを所有していないという管理組合もあるかもしれません。
そのような様々な環境の中で、将来的な需要の増大や、クリーンエネルギー対策としてマンション全体で貢献できることなど、補助金活用も検討しながら理事会や総会を通じて必要性を唱え、合意形成していく必要があります。
駐車スペースの確保
夜間等の時間帯で長時間利用可能なスペースの確保も重要となります。
予約をすれば使用できるような空きスペースが、共有部分において確保が出来るのか、またその場所へ充電器の設置や給電ができるのか、大型のEV車両でも駐車できるのかなども配慮しながら、スペースを検討しなければなりません。
管理規約や細則の確認と改訂
初めてEVの充電スペースを設置する場合には、使用にあたりどのようなルールで行うのかの取り決めが必要になります。
利用可能な時間帯や、1回あたり、または月額契約者に対する充電徴収額、更に管理組合の新たな収益手段として区分所有者以外の近隣町内のEV所有者にも開放するのかなど、管理組合内の合意形成と共に、ルールの策定も必要です。
そのような場合には、管理規約や細則の改訂も伴うので、総会での説明と共に決議も必要になります。
まとめ
日本におけるEV車両の販売拡大とともに、EV充電設備は近い将来にはあらゆる所で見かける設備になっていく事は間違いないでしょう。
そして、マンションにおいては、駐車中に充電できるような設備が必ず求められます。
規模によっては1充電設備だけでは足らず、複数の充電設備の設置も必要となってくるでしょう。
未設置の管理組合内においては、なるべく早い段階から設置の検討をしつつ、国や自治体が出している補助金獲得を狙いながら、マンション価値向上に向けての住環境整備をしていくことが望まれます。