大規模修繕でグレードアップ工事を実現するためにすべきこと
マンションにおける一大イベントが12年程度の周期で実施される大規模修繕です。
外壁に足場を架けて大がかりに工事を実施している光景は、「マンションをきれいに修繕しています」という印象を与えます。
大規模修繕に対してマンションの居住者からの期待は大きく、新築時のようにきれいになる、最新マンションのような仕様にグレードアップすると思っている方は少なからずいらっしゃいます。
しかしながら、大規模修繕工事の主な目的は「マンションとしての機能の維持」であり、多くのマンションではグレードアップ工事まで実現できていません。
今回は、大規模修繕におけるグレードアップ工事に脚光を当て、グレードアップ工事を実現するためには必要なプロセスなどを解説いたします。
マンションの劣化とは
12年程度の周期で実施する大規模修繕では、劣化進行にどのように対応していくかを考えます。この劣化進行ですが、主に
- 物理的劣化
- 機能的劣化
- 社会的劣化
の3つの種類に分類されます。
物理的劣化
「物理的劣化」とは外壁タイルの浮きや塗装面の剥がれ、発錆などマンションの構造物そのものが経年によって劣化することを意味しています。
大規模修繕では、この物理的劣化を中心に修繕が行われることが一般的であり、この劣化を定期的に修繕していくことがマンションを長期的に保っていくために必要です。
機能的劣化
「機能的劣化」とは、技術革新によって設置されている機器が相対的に劣化してくることを意味しています。
インターホン設備を例に挙げると、新築当時に設置されたモニターが白黒モニターだったとして、現在では液晶カラーモニターのタッチパネル式が発売されています。
また、オートロックのみではなく、住戸玄関横のカメラとも連動するようになっています。このように、その機器の機能そのものが劣化したわけではありませんが、技術の進歩に対する劣化を「機能的劣化」と呼びます。
社会的劣化
「社会的劣化」とは、社会が求める水準の設備や機能から劣っていくことを意味しています。昨今ではバリアフリーへの対応が当たり前のようになっており、最新のマンションではスロープが設置されていますし、障害者用の駐車場を設けています。エレベーターの中には車いすが出入りしやすいように鏡が設置されており、階段には手摺りが付いています。社会の変化によってマンションの求める仕様や水準が変わっていきますので、時間の経過とともに社会的な劣化も発生します。
「機能的劣化」と「社会的劣化」へ対応する工事がグレードアップ
グレードアップ工事とは、主に「機能的劣化」と「社会的劣化」へ対応する工事です。
現在よりも機能性の高い設備を採用したり、品質の高い塗料を使用したりすることで「機能的劣化」への対応ができます。
エントランスの階段の一部をスロープにしたり、オートロックを追加して防犯性を高めたりする工事が「社会的劣化」への対応です。
大規模修繕でグレードアップ工事を実施するために
大規模修繕実施の間近になってグレードアップ工事の検討を始めても、なかなか実現は難しいでしょう。
なぜならば先立つもの、つまり修繕積立金が足りないからです。長期修繕計画に基づいて毎月の修繕積立金を設定していますが、長期修繕計画で考慮されている大規模修繕は機能的劣化への対応が主であり、機能的劣化や社会的劣化に対応する予算は組まれていません。
これらの劣化に対応するグレードアップ工事を実施するためには早めにどのような工事を実施するかを検討し、それに対応できる予算措置を講じておかなければなりません。
いつからどのような準備が必要か?
例えば、総戸数50戸のマンションにおいてエントランス前にスロープを設置するグレードアップ工事を実施するために300万円が必要ならば、各戸が約1600円を3年前から毎月追加で積立てを始めなければなりません。
これが大規模修繕の半年前から積み立てを始めると各戸の追加積立金は毎月10,000円になります。この金額を目にすると多くの住戸はあまりに負担額に反対票を投じるかもしれません。
グレードアップ工事を実施するためには、その工事金額が各戸の大きな負担にならないように配慮しながら早めに検討を進めなければ実現できません。
早めにグレードアップ工事を検討するために
皆様は3年後の未来を具体的にイメージしたことはありますか?
1年ぐらい先の計画はあったとしても、3年先を見据えて計画を組んでいる方は少ないでしょう。
これがマンションの管理組合となれば尚更です。グレードアップ工事とはその名の通り、改良を目的とした工事ですので、日常生活の中で困っている方は少なく、マンションの未来まで考えている方は稀です。
この稀の状態から、多くの方がマンションの未来に目を向けるようにしていくことが早めにグレードアップ工事の検討に着手できる秘訣です。毎年の総会の後に少し時間を設けて、これから先の修繕計画を共有するも良いですし、グレードアップ工事の一例を紹介するのも良いでしょう。
機能的劣化に対するグレードアップとして新築マンションの最新設備を紹介するのも面白いかもしれません。
グレードアップ工事を検討する下地を醸成するためには、マンションの未来に目を向ける機会を定期的に作ることをしなければなりません。
グレードアップ工事はマンションの資産価値に直結する
マンションの購入検討者がいて、「買いたい」と「売りたい」の金額が合致したところがマンションの市場価格、つまり相場です。
この相場を高く維持していくことでマンションは資産として見なされます。購入検討者がマンションをを探すとき、近隣の多くのマンションと比較するでしょう。
その中で選ばれて「買いたい」につながるためには、機能的劣化や社会的劣化がどのぐらいマンションの資産価値に影響を及ぼしているのかを客観的に判断するのが適切です。
大規模修繕でグレードアップを実現させるために
グレードアップ工事を実現させるためには、管理会社任せ、その期の役員任せにするのではなく、管理組合として主体的にグレードアップ工事をどのようにするのか向き合っていかなくてはなりません。
マンションは数千万円という人生の中でも一番高い買物ですので、その価値が長く維持していくためにグレードアップ工事の必要性を主体的に検討してみてはいかがでしょうか。