コストが高いマンションの主要な6つの修繕工事
マンションでの生活を戸建て住宅でのそれと比較した場合の大きな特徴の一つは、建物や敷地、各種の設備を共同で利用するという点にあると言えます。
マンションの各住戸のことを「専有部分」と言うのに対し、マンションの「専有部分」以外のスペースのことを「共用部分」と言います。
このマンションの「共用部分」について、管理責任を負っているのは、マンションの管理組合であり、管理組合が費用を徴収・負担し、適正に維持・管理していかなければなりません。
そして、一口に共用部分と言っても、マンションには、エレベーターや給水設備など、実に多種多様な設備が組み込まれています。これらの設備についても、それぞれ適切な時期に適切な修繕工事を行っていく必要があります。
今回はマンションに必要な修繕工事の中でも、コストも高く、押さえておきたい6つの修繕工事について説明します。
1.大規模修繕工事
『大規模修繕』、もしくは『大規模修繕工事』という言葉を耳にする機会が最近多くなってきましたが、何となく大がかりな修繕作業であることのイメージは浮かびますが、具体的な内容が名称に含まれていません。
しかし具体的に何を修繕工事するのか分からないという方が多いのではないでしょうか?
大規模修繕工事とは、一般にマンションの外壁を中心とした部分の修繕工事のことを指します。修繕の周期は、以前は10年程度とされてきましたが、外壁塗料の品質が向上したことなどを受け、近年は12年程度を一つのサイクルとする考え方が主流になってきています。
この外壁の修繕工事と併せ、屋上の屋根防水の工事やバルコニーの防水工事、シーリング工事など、修繕周期が重なる修繕作業を一緒に実施することが多く、その分、修繕対象の範囲や費用も拡大します。
そのため、文字通り、マンション全体に関わる大がかりで大規模な修繕工事となります。
大規模修繕工事の検討は、その前段階としてマンションの劣化状況を調査・診断したり、業者を選定するための総会を開催したりします。
また、大規模修繕は足場を組むなどして修繕作業を行うため、視界が遮られたり、洗濯物をバルコニーに干せなくなったりと、生活にも直接支障が生じますので、管理組合や居住者を巻き込んだ、かなり大がかりな修繕工事になります。
なお、立地や形状にもよりますが、70戸程度の中規模マンションの場合、概ね3ケ月程度の日数がかかります。また、戸当り80万円から100万円というのが、大体の相場価格ですので、70戸程度のマンションの場合、これだけの修繕工事で6,000万円程度のお金が必要になりますので、出費の面から見ても「大規模」と言えます。
2.給排水管の修繕工事
水廻りを中心としたマンションの修繕は大がかりな修繕工事となります。実施に際しては、時間をかけてしっかりとした計画を立案することが重要になってきます。
これらの排水管の修繕は概ね20年から25年程度の周期で実施するケースが多いです。
コンクリートに埋設した既存の配管を取り出すことは大変な作業になりますので、これを塞いで使えなくしてしまい、新たに露出の配管を増設するなどして、受水槽やポンプと継ぎ直す方法が従来は一般的な工法でした。
しかし、この分野においては、既存の給排水管を利用しつつ、特殊な研磨剤を用いて、配管内の錆こぶをそぎ落とすライニング工法やオゾンを用いて高圧洗浄を行う工法など、従来の工法に代わる新工法が次々と登場し、実用化が浸透してきています。
3.エレベーターの修繕工事
エレベーターのリニューアル修繕工事は、概ね25年から30年周期で実施するものとされていますが、大規模修繕工事と同様、法律等で実施時期が定められているわけではありませんので、各マンションの状況を考慮した上で、必要に応じてリニューアルを検討していくことになります。
一昔前はエレベーターの「かご」を丸々交換する修繕工事が主流であり、真新しいエレベーターに入れ替えることができる反面、修繕工事に多額の費用がかかりました。
また、修繕中の数日間は、エレベーターが利用できなくなりますので、マンションに一機しかエレベーターがないケースでは、高層階の居住者からは、苦情が寄せられるようなことも少なくありませんでした。
しかし、近年は、制御盤と呼ばれる基幹部品だけを入れ替え、「かご」自体は既存のものを使うなどして、工事の内容や時間を縮小し、費用を節減できるような方法も多く採用されるようになってきています。
4.機械式駐車場の修繕工事
機械式駐車場と一口に言っても、三段式、四段式といった狭義の機械式駐車場やタワー式駐車場など、マンションの規模や立地によってその形態は様々ですが、その構造が複雑なだけに、様々な部品の交換が必要で、修繕工事に当たっては、多額の費用が必要になってくるのが機械式駐車場の特徴と言えます。
駐車場設備の規模や構造によっては、マンション全体の修繕工事費の半分近くを駐車場関係のそれが占める場合もあります。
30台程度を収納するタワー式駐車場を一例に挙げますと、10年程度でパレットの塗装やワイヤーロープの交換が必要になってきますし、その他電装品など様々な部品の交換等が5年や10年といった周期で交換時期に入ってきます。
なお、これは蛇足になりますが、こういった機械式駐車場設備の有無は、マンションの管理費の金額に直結してきますので、車を必要とされない方の場合、こういった設備のないマンションを選んだ方が金銭的なメリットはあると言えます。
なお、駐車場についてはサブリースとして外部に貸し出し逆に収入を得るケースもありあす。
5.情報・通信設備の修繕工事
普段、何気なく使用していることも多いかもしれませんが、マンションには様々な情報・通信設備が存在します。
エントランスに設置しているインターホン設備やインターネット設備、テレビ共聴設備などがこれらに該当します。
これらの設備も設置した後、そのまま機能し続けるわけではなく一定の周期で更新工事を行っていくことになります。
それぞれの修繕工事のサイクルは、電話設備(MDF等)で30年周期、テレビ共聴設備で15年周期、インターネット設備で15年周期、インターホン設備で15年周期と一般には言われています。
ここで注意したいポイントですが、例えばインターホン設備の場合、30年くらい前までは、オートロック設備がそもそもありませんでしたし、エントランスの親機と住戸内の子機とでも、一昔前のマンションですと音声通話のみの設備が主流でしたが、最近のマンションでは当たり前のように映像設備も付いています。
一口に修繕周期15年と言っても、設置当初と同じ機器に取り換えるわけではなく、最新の設備にグレードアップすることになりますので、周辺の機器も併せて取り換える必要が生じるなどして、工事が大がかりになるケースもあります。
そして、その場合には費用もかなりかかることもありますので、余裕をもった資金計画をあらかじめ立案しておくことが大切になってきます。
6.電灯設備の修繕工事
マンションにはたくさんの共用照明が備え付けられていますので、一定の周期でこれらも更新していく必要があります。
それぞれの修繕工事のサイクルは、電灯設備で15年周期、配電設備や幹線設備で30年周期、避雷針設備で40年周期とされています。
これらのシステムの更新工事とは別に、電球が切れてしまった照明については、もちろんその都度交換する費用が発生します。
マンションの照明は、一日中点灯している照明も少なくなく、照明の数が数だけに電気料金もかなりの金額になります。
この場合、白熱電球からLED照明に切り替えるなどして、ランニングコストを抑えるための工夫も必要になってくるでしょう。
いずれの設備についても言えることですが、ユニットとしての更新工事と日々の設備の劣化に対する手当てという2つの視点で工事に備える必要があります。
補足:マンションの消防用設備
最後は修繕ではないですが、消防用設備についても紹介しておきます。
マンションというのは、一つの建物を多くの人々が共同で利用する住まい方です。例えば一つの住宅で火災が発生した場合など、周囲に延焼が広がり、多くの犠牲者が出るようなことのないよう、様々な仕組みや規制が設けられています。
マンションは鉄筋や鉄骨とコンクリートの壁で周囲を覆われていますので、木造の戸建住宅に比べれば、はるかに火災に対する強度は高い構造になっています。
それに加えて、消防法の規定により、屋内消火栓設備や自動火災報知設備、連結送水管など、実に多種多様な設備が備え付けられています。
そして、それらの設備がいざという時に正常に機能するよう、年2回(総合点検・機器点検と言います)点検を行うことが法律で義務付けられています。
それぞれの修繕工事のサイクルは、全体として見ますと、屋内消火栓設備が25年周期、自動火災報知設備が20年周期、連結送水管設備が25年周期でそれぞれ取替とされていますが、一般には、点検の際に不具合の指摘が挙がってきますので、それに対応して、劣化している部分を取替ということが多いです。
ですので、今挙げた修繕の周期は、ユニット全体としての取替の目安と考えて頂けると良いでしょう。
また、消火器については、8年に1回程度で更新することが望ましいとされていますが、マンションにはたくさんの消火器が設置されていますので、これらを一斉に更新するとなると、かなりの費用がかかります。
特に屋内に設置している消火器の場合、一般に8年以上は十分に持ちますが、いざと言うときに消火器が使えないようでは話になりませんので、ご自宅の近くの消火器の場所や使用方法を確認し、使用に支障が生じないか、確認しておくと良いでしょう。
マンションの修繕工事の意義
マンションには普段目にする設備から全く意識しない設備まで、実に多様な設備があり、それらはメンテナンスが必要です。
マンションの年数経過とともに設備も劣化していきます。これはどうしようもありません。
そのため、修繕の計画を立て、設備をしっかりメンテナンスしていく必要があります。そしてこれらのメンテナンスが適切に行われるかどうかは、マンションの管理次第です。
「マンションは管理を買え」、そう言われる所以は、こういった点にもあるのではないでしょうか?