大規模修繕に興味が湧かない理由と興味を持ってもらうための工夫
マンションの大規模修繕工事は概ね12年から15年ごとに行う工事です。
マンションの構造は、頑丈な鉄筋コンクリート構造(RC造)や鉄骨鉄筋コンクリート構造(SRC造)であることが多いのですが、50年、100年と長期に渡って使用するためには、計画的な大規模修繕工事は欠かせません。
にもかかわらず、各部屋のマンションオーナーにとっては、大規模修繕工事への関心は薄いことが多いのが実情です。
そこで、今回は、大規模修繕工事に興味がわかない3つの理由と、そこから、興味をもってもらうための工夫についてお話しいたします。
大規模修繕に興味が湧かない理由
1.大規模修繕が何か知らない
まず、そもそも大規模修繕という言葉が、各部屋を所有するマンションオーナー、つまり、各区分所有者にとって、馴染みがありません。
新築マンションでも中古マンションでも、購入希望者が購入を決定するまでに確認することはたくさんあります。
部屋の広さ、間取り、ロケーション、最寄り駅、もちろん、購入金額は、誰でも確認する点です。
この他にも、購入希望者の興味の対象は様々です。
バスやキッチンなどの設備や、日当たり、眺望といった各部屋の特徴が気に入ったから、ペットが飼えるから、という理由で購入を決める方も多くいます。
また、マンションのファサードやエントランスホールといった共用空間や、マンションの建物の免震構造にこだわりを感じて、あるいは、周辺の環境、地名や、公立学校の学区が決定打となって購入する方もいます。
しかし、大規模修繕計画が、購入を決めたきっかけとなったという購入者は、ほとんどいないでしょう。
なぜならば、大規模修繕計画は、決まりや契約でもなく、ただの計画ですから、将来の修繕工事はいかようにも変えられるものだからです。
また、新車や新品の電化製品を買う時に、わざわざ、数年先の修理の可能性と見積り金額を聞いて、それが決め手になる人はめったにいないのと似ています。
中には、大規模修繕計画の内容を一度もしっかり見たことがないと明かす区分所有者も時々見かけます。
2.なぜ大規模修繕が必要なのかわからない
大規模修繕計画の内容は知らなくても、大規模修繕計画の存在は、マンションオーナーで知らない人はほとんどいません。
新築のマンションを購入する場合には、一括して修繕積立基金や修繕積立準備金といった名目で、計画的な大規模修繕工事のために、まとまった数十万から中には100万単位の金額を支払うことが一般的だからです。
ここで、購入者によっては、何に使うのかわからないのに、結構な金額を支払わなければならないことを初めて知って驚く人もいます。
さらに、新築でも中古マンションにもあてはまりますが、毎月、管理費と修繕積立金を支払うことになります。管理費は、常駐したり巡回する管理人が、マンションの共用部分の掃除をしたり、ゴミ出しするのを目にすることができるので、必要な費用だと容易に想像できます。
しかし、修繕積立金は、何のために支払うのか知らずに、管理費と一緒に自動引き落としされることに、若干の疑問を感じるマンションオーナーも少なくないようです。
3.どのように大規模修繕工事に関係するかがわからない
各マンションオーナーから、毎月集められる修繕積立金は、大規模修繕工事を実施するまでは、ずっと積み立てられるだけです。毎月の修繕積立金の残高は、管理組合の理事長にでもならない限り、知られることはありません。
毎年1回の管理組合総会で修繕積立金の残額と、大規模修繕工事の実施が計画されていることを管理会社から報告されて、初めて大規模修繕工事に注目したというマンションオーナーが、理事にも珍しくないようです。
しかし、その長期修繕計画も、防水工事やら、外装工事に、給排水設備工事と、工事名の羅列とそれぞれの概算金額が書いてあるだけですから、これから工事をどのようにするか、何千万もの残額があるけれど、それが十分な金額なのかが全く見えずに、何をどの順番でどう決めていいのかがわからず、困惑する理事長や理事が多数を占めます。
大規模修繕に興味を持ってもらう工夫
そこで、大規模修繕工事に興味をもってもらうためには、まず、コストを掛けずに、大規模修繕工事について、理事やその他のマンションオーナーに知ってもらうことが必要になります。
コストを掛けないとは、お金を掛けないという意味もありますが、理事やその他のマンションオーナーにとって読む負担というコストが少ないと意味でもあります。
理事やその他のマンションオーナーにとっては、大規模修繕工事は、ほとんど未知の言葉です。
そこで、大規模修繕工事の意味を、読みやすい言葉で説明し、なぜ大規模修繕工事が必要なのか、また、工事毎の概算金額から、どうやって、実際に工事の会社と請負契約を締結するかを、誰もが簡単に読めるようにしておく工夫が必要になります。
マンションの共用部の掲示板を利用する
そのおすすめが、マンションの共用部に設置している共通の掲示板を利用することです。
日頃から、パソコンやスマホを使いこなしている平成生まれの年代にとっては、マニュアルすぎて面倒と呆れられるかもしれません。
しかし、マンションオーナーには、昭和生まれ、それも70歳、80歳になる人もいますから、パソコンのスイッチを付けたこともなく、スマホに触ったこともなく、メールアドレスももっていない人もいて当然です。
そこで、誰でもいつでも、手軽に読むことができるような、内容を少なめにして、文字を大きめにして、タイトルに、例えば、”修繕便り”とか”修繕工事について”などと、目を引くようなものをつけて、定期的に回数を重ねて掲示することをおすすめします。
フォローアップも忘れない
掲示板に修繕工事について掲示してあるのが定着した頃、修繕工事について知り始めたマンションオーナーの興味が消えてしまわないように、フォローアップも重要です。
管理組合の総会や理事会とは別に、非公式や有志でマンションオーナーが集まり、修繕について、また、それに限らず、日頃住んでいておかしい、不満だと思うことなど、自由に言いたいことを言えるような集まり、”お茶会”を開催するのも一つの方法です。
場所は、集会場や会議室に限らず、カフェやファミレスでも、自由に話せる場所にして、参加料は無料か各自の飲み物代金ぐらいにとどめておいて、参加へのハードルを下げておく工夫をすると参加者が集まりやすいでしょう。
この”お茶会”も、掲示と同じように、定期的に行うことで、回数を重ねるにつれて、集まったマンションオーナー達が修繕工事について理解を高め、親密になっていくことが期待できます。
日頃不満に思うことを集約することで、修繕が必要な箇所や工法が事前にわかり、工事の進行が早まる、意外な驚きもあります。
マンションオーナー達が”修繕便り”で知識をインプットし、”お茶会”で疑問点、感想を言い合ってアウトプットする、このインプットとアウトプットの繰り返しで、マンションオーナーの大規模修繕工事への興味を持ち続けてもらうことができます。
大規模修繕に興味をもってもらうことの重要性
大規模修繕の興味をもってもらうことは非常に重要です。なぜなら潜在的なものも含めると9割近いマンションで修繕積立金が不足していると日本経済新聞が報告しています。
このように大規模修繕に興味を持ってもらうことができれば、大切な修繕積立金を無駄にしない、知恵と工夫をだせるはずです。