大規模修繕工事で修繕金が足りない、費用が払えない!そんなとき出来る知恵と工夫
分譲マンションに住んでいる、または住んでいた方であれば「大規模修繕工事」について聴いたことがあると思います。
竣工後10~15年が経過した頃に行う、外壁や鉄部部分の修繕や再塗装等といったマンション全体の一斉リニューアル工事のことです。
そしてこれはマンションを管理する上で最も時間と労力と費用のかかる案件です。
毎月徴収している修繕積立金の多くを使用することになるため、住民の関心も高く、また、日頃の生活の中で行われる工事のため住民の我慢や苦労も多いです。
大規模修繕工事はマンションを維持する上で避けては通れない道とはいえ、その行程はなかなか容易ではありません。
そんな大規模修繕工事を検討するうえで、最も重要なことはマンションの財政状況、つまり修繕積立金の状況です。
一般的な管理組合であれば、管理会社主導のもと長期修繕計画表というものが策定されているはずです。
この長期修繕計画表内にて大規模修繕工事の凡その金額は記載されており、この修繕計画に足りるよう修繕積立金の額も設定していくわけですが、いくつかのシチュエーションによってはこの工事費が足りないという事態もあり得ます。
マンションを適切に維持する上で最も重要な工事の際、費用が足りないとなったときにどう動くべきか、ご紹介します。
大規模修繕工事費の削減を目指す
まずは見積提出会社への減額交渉を始めましょう。
見積書を最初に提出する会社は独占状態であることを想定しているケースが多いため、仕様はフルスペック、金額も強気で提出していることが予想されます。つまり利益幅も大きめに取っている状態であるため、減額の余地は充分にあるという事です。
そして、同業他社へ合見積は必ず取得しましょう。
現在はウェブ上で探せば施工会社は多く見つかるはずです。
また、住民内に建築関係に従事している方がいるかもしれないため、全戸アンケートにて、施工会社の紹介を依頼するのもよいと思います。
業者探し自体は難しいことではありません。
重要なのは「どの施工会社に見積もりを依頼するか」です。
選定の基準として持つべきは
- 同規模のマンションでの施工実績
- 類似環境での施工実績
です。
同規模マンションでの施工実績
まず「同規模のマンションの施工実績」についてですが、マンションは大小様々あり、形状や使用部材、敷地面積等それぞれのカラーがあります。
施工会社は建築のプロですが、その技術の裏づけはこれまでの実績やノウハウによるものです。
修繕工事の際、どれほど質のよい工事が出来るかどうかは、その会社の実績に反映されるものと考えてよいでしょう。
前述のとおり多種多様な仕様や形状をもつマンションであればなおさらです。
施工経験豊富な会社を選ぶことが信頼できる施工につながります。
類似環境での施工実績
次に「周辺での施工実績」について、工事の際の現地の把握度は思いの外重要です。
マンションは住宅街の中にあるものが殆どです。近隣住宅との距離が近いため、工期中は多少の近所付き合いも必要となるし、周辺住民の歩行や車の通行等にも気を配らなければなりません。
更地から始める新築工事とは異なり、施工者として動ける範囲が限られていることから、マンション周辺地域の環境をより深く把握していることは、円滑な工事進行を行なうことができる重要な要素であると言えます。
例えば、同規模のマンションでの工事実績があったとしても、都内23区の人口密度の高い住宅密集地域での施工環境と郊外の施工環境は大きく異なるはずです。
大規模修繕工事は、仕様通りに工事を行うだけではいい完成形にはなりません。
様々なリスクマネジメントをおこない、横槍がなく円滑に作業を行なう環境を整えることも重要なことなのです。
そういった意味では、自身の住むマンションの周辺地域もしくは類似した地域での施工実績がある施工会社は一定の信頼がおけると考えることができます。
相見積もりは3社から5社
上記を踏まえ、選定を行い、大規模修繕工事の合見積書取得できれば、競争の原理により価格は下がるため、あとは最も信頼できる施工会社を選べばよいのです。
余りに多くから取得すると収拾がつかなくなるため、3~5社に絞ることをお勧めします。
「あと少しだけ・・・。」と思った場合、内定を決めている施工会社へ最後の減額交渉をしてもよいと思います。
コツは発注をちらつかせながら、「最後の一押しを欲しい」という気持ちで交渉に当たることです。
施工会社の気持ちを汲む
施工会社とはいえ、まずは人間であるから気持ちよく仕事ができる環境を望んでいます。
ましてや、住民が多数住みながらおこない、少なからずのクレーム発生も想定される工事です。現場の士気は工事の仕上がりに反映されると思ってください。
「共によりよい完成を目指し、協力して欲しい」という気持ちを伝えれば、向こうも汲み取ってくれます。
費用削減の注意点
念のため、減額にあたる上での注意点としては、減額という金銭面のゴールのみを表に出してはいけません。施工会社も自社の利益幅はあれど、積算の上根拠を持って提出にあたっています。
その中で、受注のため、自身の腹を切りながら減額に協力してくれているともいえるわけです。
工期は4ヶ月間から長いもので1年以上かかることもあります。お互い気持ちよく接することができるよう、受注側とはいえ節度を持った対応を心がけてください。
例えば、「○○○万円以下で!」というような指値での減額交渉は施工会社側も気持ち良く工事はできないでしょう。
大規模修繕工事費の不足分を工面する
上段の施策の末、纏まった減額に成功したが、未だ足りないという場合、
- 組合員より一時金を徴収し補填する
- 修繕金の借り入れを行い補填する
の2案があります。
修繕金の一時金の徴収
まず、「一時金の徴収」ですが、これは不足分を組合員数で等分し、一時金として徴収する方法です。しかしこれリスクは大きい方法です。
まず一般的には反発が強く、合意形成が困難であることが予想されます。
マンション規模にもよりますが、数十万円単位で各戸に請求することとなります。
そのような纏まったお金を払うことの抵抗感は強く、また、仮に合意形成が取れたとしても、本当に全員がその一時金を払ってくれる保証はありません。
日頃の管理費や修繕積立金の滞納者がいた場合は当然に一時金も払えないだろうし、一時金支払の固辞する人も出てくるかもしれません。
1人でも払えないと工事自体が頓挫する可能性が出ますし、払われないまま工事が出来たとしても全員負担が原則の一時金で未収者が居ること自体、管理組合内での軋轢を生むことになります。
修繕金の借り入れ
次に「借り入れ」ですが、住宅金融支援機構より「マンション共用部分リフォーム融資」という商品が展開されています。
管理組合を対象に固定金利、担保不要にて一定額の融資を受けることができます。
融資額に限度はありますが、金銭面での助けとなります。
しかし当然のことながら工事後は返済があるため、将来的な修繕積立金の貯蓄額もきちんと計算の上検討する必要があります。
いずれにせよない袖を振るための対応なので、出来れば避けて通るべき道、と考えて下さい。
大規模修繕工事の仕様や実施時期を見直す
大規模修繕費用が足りず、一時金や借入れも出来ないという場合、工事の仕様を減らしたり、実施時期を見直してもよいと思います。
大規模修繕工事の実施周期の目安は12年周期といわれていますが、その環境によって劣化進行の具合は様々です。
きちんと精査をすれば、やるべき箇所と先送りできる箇所を抽出することができます。
全てを改修することが理想ではありますが、必要箇所のみを重点的に修繕することも立派なメンテナンスです。
留意しておくべきことは、住民達の生活の安全だけはきちんと担保しておくことです。
例えば、タイルの劣化によって剥離、落下し怪我をさせてしまったり、屋上の防水層の劣化によって下階が漏水するというような生活を脅かす事態は起きないようにしないといけません。
大規模修繕費が足りなくとも出来ることはある
このように費用が足りない状況であっても、努力と工夫でやれることはあります。
労力と時間はかかるかもしれません。けれど大事な資産を維持するための正念場でもありますので、マンション区分所有者の皆様の協力を以って乗り越えていただきたいと思います。