理事・修繕委員を経験したから伝えたい!責任施工方式の大規模修繕のポイント
マンションの大規模修繕工事とは主に12年ごとに行う工事で、金額では数千万以上かかるのが通常です。
マンション管理組合にとっては、一大プロジェクトになります。その大規模修繕工事は、責任施工方式で行われていることも珍しくありません。
なぜ、責任施工方式が選ばれるのでしょうか?
今回は、修繕委員長として責任施工方式の大規模修繕工事を経験してわかった、知っておきたい責任施工方式のポイントについてお伝えしたいと思います。
責任施工方式が選ばれる理由
責任施工方式とは
そもそも責任施工方式とは何でしょう? これは、工事の方法のひとつで、マンション管理組合と工事施工会社が、直接工事請負契約を締結する方式です。
この場合、工事施工会社がマンションの建物診断を行って修繕設計を作成し、そして、その設計に基づいて工事を施工,監理します。工事施工会社一社で、自らが設計した工事を、責任をもって施工する方式なので、責任施工方式と呼ばれています。
設計監理方式とは
その他の工事の方法には、設計監理方式があります。
設計監理方式とは、マンション管理組合が、工事施工会社ではなく、設計事務所等と、設計・監理委託契約を結ぶ方式です。そして、設計事務所等が、工事施工会社と工事請負契約を締結します。
設計・監理委託契約を結んだ設計事務所等は、マンションの建物診断を行って修繕設計を作成しますが、工事は行わず、工事が設計どおりに行われるように工事を監理します。マンション管理組合は工事の設計と監理だけを行う設計事務所等と契約を結ぶので、設計監理方式と呼ばれています。
それぞれの方式の特徴
この設計監理方式は、工事がきちんと設計通りに行われているかを、第三者が厳格に監理できるので、手抜き工事等の工事の不正の防止には効果的です。しかし、設計事務所等のコンサルタント費用は一般的に高額です。
責任施工方式では、工事施工会社一社が設計から施工、監理まで全て行うので、チェック機能が弱くなりますが、費用が低く抑えられる特徴があります。
マンションの大規模修繕工事は、そのほとんどが、新築当時に作成された長期修繕計画に基づいて行われる計画修繕工事です。
この長期とは20年から30年ぐらいにわたり、その間に数回の大規模修繕工事が計画されているのが通常です。長期修繕計画は5年程度で見直されることもありますが、それでも、計画が作成された当時から、大規模修繕工事を実際に施工するまでは、5年、10年と間が空きます。
修繕金不足からコストが掛からない責任施工が選ばれる
この年数の間には、物価の上昇や新しい工法の開発など想定外のことが起きますが、たいていのマンション管理組合では、毎月積み立てる修繕積立金の金額は据え置いています。
そこで、修繕積立金の金額が潤沢とは言えない状況で、大規模修繕工事を行う場合が多くなり、費用のかかる設計監理方式よりも、責任施工方式が選ばれる傾向にあります。
工事施工会社の契約前に注意すること
では、責任施工方式で、マンションの大規模修繕工事の請負契約を締結する場合には、何を注意したらいいでしょうか?
幅広く施工会社を募集する
まず、資本金などで制約をかけず幅広く候補の工事会社を募って、同じ条件で作成された見積もり書を集めて、スクリーニングをすることをおすすめします。
見積もり書を比較検討することによって、大規模修繕工事の知識や経験がない場合でも、およその相場がわかってくるので、賢明な選択が可能になるからです。
また、工事代金だけで施工会社を選ばない事も重要です。書類審査に掛けられる時間にもよりますが、3社から5社位の候補から、2社から3社の最終候補に絞ることと予め決めておくと、適切な判断がしやすくなります。
施工会社を選ぶ上で
次に注意しなければならないのは、責任施工方式では特に重要な施工会社の選定です。
工事は完成してしまえば見えなくなる箇所が多く、工事会社の現場責任者や作業員がその気になればごまかしや嘘がいくらでもできてしまいます。たとえば、コンクリートを水で薄めても、固まってしまったら、もうわかりません。
こういった点からも費用が安ければいいのではなく、適正価格という事が非常に重要です。
最終候補の数社には、全住民を対象にして説明会を開いてもらい、広く住民の意見を聞いて、責任をもって工事を施工することができると信頼を得た工事会社を最終的に選ぶことをおすすめします。
説明会について
大規模修繕に向けて、説明会を開催することになりますが、この説明会の主な目的は、専門用語の多い工事内容の説明を、住民にわかるように説明し、住民にとっては不快、不便なことを理解してもらい、住民の協力を得ることです。
たとえば、外壁塗装工事や屋上防水工事が含まれる大規模修繕工事の場合、マンションの建物の周りに足場を組んで、その上からカバーがかけることが一般的です。そうなると、マンションの建物内で毎日生活する住民にとっては、どうしても圧迫感を感じやすく、夏には暑苦しくもなります。さらに、エアコンの使用や洗濯物をベランダに干すことも制限される場合もあります。
このような不便に対する住民の理解が得られるかどうかは、説明者の工事に対する意欲の高さによって左右されます。
配布される説明文書がわかりやすく、説明者が親身で丁寧に説明すると、住民には工事を任せてもよいという安心感が生まれます。
現場代理人や工事責任者もしっかり見定める
説明者が営業担当だけでなく、現場代理人の候補や、工事部門の責任者なども含まれると、全社的な熱意が感じられて、責任をもって工事を施工することに信頼が置けるようなります。
現場代理人を始めとする会社の責任体制についても注意が必要です。
工事は、契約した工事施工会社だけで行うのではなく、さらに別の会社や個人にも工事を請負わせる下請けに出されるからです。
工事施工会社がいかに立派な会社でも、実際に工事を行うのは下請けの現場作業員がほとんどなので、現場管理体制については、工事施工会社の目が行き届くように現場代理人が常駐するのが理想的です。
会社の体制や実績について確認する
会社の品質管理、安全管理体制や工事後の保証内容についての確認しておくと安心です。
また、大規模修繕工事の実績についても、具体的に聞いておくことをおすすめします。
特に近隣に所在するマンションや同じような戸数のマンションでの実績はを聞いておくといいでしょう。
マンションの大規模修繕工事は、計画的に何年かごとに行うのが一般的なので、マンション管理組合は、次の計画修繕も同じ工事会社にリピートすることが考えに浮かぶものです。
そこで工事をリピートされている施工会社は期待できる施工会社でしょう。
そのようなことから、実績を把握しておくことは大切です。もっとも、候補の工事会社によっては、聞くまでもなく、詳細な実績をアピールする場合もありますが、このような会社であったら、大規模修繕工事を誠実に施工することが期待できます。
説明会は必ず複数社で行う
大規模修繕工事の契約締結には、最終的に、組合の総会で普通決議か、場合によっては特別決議での承認が必要です。
総会で否決されると、それまでの理事や修繕委員の努力はムダになってしまいます。そこで、いくつかの候補の会社の説明を聞いて、住民の意見を集めて一社に選定しておくことが、組合がスムーズに進める事ができます。
大規模修繕が始まってから注意すること
工事施工会社と契約すると、いよいよ、着工、工事の始まりです。
コミュニケーション
工事の遅延は費用がかさむ原因になりえますので、工事を円滑に進めるために、工事期間中は、現場代理人を始めとする工事施工会社とマンションの住民のコミュニケーションがスムーズにとれるように注意が必要です。
工事施工会社には、工事の進行状況だけでなく工事の予定も、マンション住民に定期的に報告してもらい、工事に対する住民の意識を高めておくことが重要です。そのことによって、住民からのクレームが減り、工事が進みやすいように準備ができるからです。
スケジュールと追加工事
工事の進捗は、おもに天候や作業員の作業の進行具合によって左右されますが、それだけはありません。
工事が始まってから、見積もり作成時には発見されなかった建物の傷みや損傷が見つかることはよくあります。
その傷の程度によっては、工事の予定の変更を強いられ、追加の工事が必要となる場合があります。このような場合には、現場代理人が、速やかにマンション管理組合に状況を説明し、組合と工事施工会社とで協議をすることが求められます。
近隣住民の声にも耳を傾け対応できるように
近隣住民からのクレーム対応によっても、工事の進行は遅れてしまうと事もあります。
工事には、騒音や悪臭に関するクレームが多く寄せられますが、このような人の感覚によって異なるクレームは、その現場で対応しておかないとその不快さがクレーム対応者に伝わりにくく、クレーム対応が先延ばしになりがちです。
クレーム対応が遅れるとクレームが深刻化して、工事を中断せざるをない問題に発展しかねません。そこで、現場代理人がすぐに対応できるように、常駐または巡回の頻度がひんぱんであることが望ましいのです。
施工会社と信頼関係を築く
大規模修繕工事には、竣工時を含め下地補修工事完了時や足場解体時など、工期の各段階で検査が行われるのが一般的です。
この検査の時に、工事施工会社の工事に対するそれまでの尽力に感謝の気持ちを表明し、工事関係者の竣工までの意欲を持続的に高めておくために、理事や修繕委員が時間を割いて立ち会うことをおすすめします。
修繕委員長を経験して伝えたい事
マンションの施工を行うのはコンサルではありません。そして、最終的に選ぶ責任は管理組合にあるのです。
そうであるならば責任施工の質を高めることが、大規模修繕費の削減につながり、また、将来に修繕積立金を残して行く事ができるのだと思います。
住民やマンション管理組合が工事に対して高い関心をもち、工事施工会社の責任管理体制が整っていれば、責任施工方式の大規模修繕工事でも、設計・管理方式に匹敵する工事の監理が期待できます。