責任施工と設計監理!マンションの規模別に考える最適な施工方法
マンションの一大イベントである大規模修繕。
10~15年周期で実施するケースが多く、これまで貯めてきた修繕積立金の大半をこの大規模修繕に使いますので、「失敗はしたくない」という気持ちをより一層強く抱きます。
この大規模修繕ですが、施工方法には大きく分けて2つの種類があります。
1つは責任施工と呼ばれる方法です。管理組合が施工会社と施工範囲や仕様を打ち合わせしながら決定していく方法です。
そして、もう1つは設計監理と呼ばれる方法です。施工会社とは別に監理会社を加え、監理会社との打ち合わせで施工範囲などを決定した後に施工会社を募る方法です。
この2つの方法には、各々にメリットとデメリットがありますので、満足感のある大規模修繕にするためにも適切な方法を選択したいものです。
今回は、マンションの規模による特徴を踏まえて、最適の施工方法をご説明いたします。
責任施工のメリットとデメリット
責任施工は、管理組合が施工会社に大規模修繕を発注するシンプルな方法です。
メリット
この方法の一番のメリットは、設計監理に比べて費用が安価である点です。設計監理は施工会社とは別に監理会社への支払が必要になります。
監理会社へどの程度の業務を依頼するかにもよりますが、一般的には工事監理まで依頼すると大規模修繕本体工事の10%程度の金額が目安になります。
大規模修繕本体工事は数千万円、規模によっては1億円を超えますので、監理会社への支払は数百万円、時には一千万円を超えます。
他の箇所の修繕や改善にこの金額を使えることを考えると、費用面では監理会社を入れない責任施工の方にメリットがあります。
デメリット
一方、責任施工のデメリットは、施工会社の選定経緯や工事見積の透明性の確保が難しい点です。そもそも設計監理という方法が生まれた理由もここにあります。
例えば以下の2社なら皆様はどちらの会社を選びますか?
■施工会社候補A
- 資本金5000万円
- 近年の売上や利益はほぼ横ばい
- 同じ規模のマンションの大規模修繕を実施した事例が豊富
- 営業担当の話が分かりやすく信頼できそう
■施工会社候補B
- 資本金2億円
- 近年の売上や利益は増加傾向
- 同じ規模のマンションの大規模修繕を実施した事例が少ない
- 営業担当の話がたどたどしく少し不安を感じる
大規模修繕では、屋上防水の10年保証など施工会社と長期的に付き合っていくことになります。
この観点で考えれば資本金が豊富で経営が安定していそうな施工会社候補Bが有力になります。
しかしながら、実績の豊富さや担当からの提案の納得感でいくと施工会社候補Aが有力になります。
設計監理の場合には、専門知識を有する監理会社のアドバイスを得られますが、責任施工では管理組合の中の意見から施工会社を選定しなければなりません。
多くの組合員は大規模修繕について専門知識を有していないことが多いため、施工会社の良し悪しを決めるのが難しくなります。
設計監理のメリットとデメリット
設計監理のメリットとデメリットは、責任施工の反対です。
メリット
メリットは、施工会社の選定経緯や工事見積の透明性が確保されやすい点です。
監理会社との打ち合わせによって工事範囲と仕様を決定した後に施工会社候補の各社へ「この条件ならいくらになりますか?」と見積を依頼できるため、同条件の見積を比較検討することができます。
施工会社を決定する経緯が分りやすくマンションの総会でも組合員からの理解が得られやすいでしょう。
また、工事監理も併せて依頼すれば、工事が見積内容に合わせて進行されているかを管理組合とは別の視点でチェックしてもらうことができます。
管理組合は、工事に関する専門知識を有していないことが多いため、専門知識のある第三者に工事をチェックしてもらえるのは、大規模修繕を安心して進めるための大きなサポートになります。
デメリット
一方、デメリットは監理会社の費用が大規模修繕本体とは別にかかる点です。責任施工に比べて数百万円単位で追加費用が発生しますので、これを必要な費用と捉えるか、節約できる費用と捉えるか考える必要があります。
大規模マンションなら設計監理の方法がおすすめ
マンションの規模が大きくなればなるほど、大規模修繕の施工範囲は広くなります。
施工範囲が広くなるということは、責任施工における各社からの提案内容の違いが大きくなるので、施工会社の良し悪しの判断が難しくなっていきます。
また、大規模マンションでは居住人口が多いため、組合員全員が大規模修繕の検討に参加することは難しく、理事会の役員や大規模修繕委員が検討の中心になります。
それ以外の組合員には総会などで検討経緯の透明性をしっかりと説明して納得してもらう必要があります。
設計監理の方法を採用して監理会社が検討に加われば、管理組合とは別に専門家の立場からアドバイスをもらえますし、統一条件で見積を取得して施工会社候補の比較検討がしやすくなりますので、検討に参加していない組合員からの理解が得られやすくなります。
そして、大きなマンションの大規模修繕では工事期間が長くなり、複数棟の団地タイプでは1年以上に及ぶ場合もあります。
工事中のトラブルへの対処という意味でも監理会社を加える方法をおすすめします。
小規模マンションなら責任施工も有効
小規模マンションは大規模マンションと違って、組合員が少ないので管理組合としての意思決定がしやすいという特徴があります。
例えば、総戸数20戸のマンションで施工会社候補の説明会に15戸が参加すれば、過半数の意見を聞くことができます。
これが総戸数1000戸の大規模マンションになりますと、説明会を何回も開催しなければならず、全体での意見交換は難しくなります。
検討経緯が分かりやすくなるというのが設計監理のメリットですが、小規模マンションならば検討経緯が共有しやすく組合員からの納得感が得られやすいので、費用削減を目的に責任施工という選択肢も考えるべきでしょう。
なお、設計監理であっても、発注責任は管理組合にあります。そのため、費用対効果の高い責任施工を選択することも小規模マンションには有効です。
責任施工と設計監理のまとめ
責任施工と設計監理、どちらの方法にもメリットとデメリットがあります。
マンションの規模による特徴を考慮すると、大規模マンションでは、工事規模が大きく組合員の意見の共有が難しくなるため、専門知識を有する設計監理という立場を入れるのが有効です。
小規模マンションでは、意思決定がしやすいため、費用削減を目的に責任施工という選択肢も考えられるでしょう。
大規模修繕は各マンションにとっての一大イベントであり、マンションの資産性にも影響を及ぼす工事です。同じ規模でも総会の出席者が多いマンションもあれば少ないマンションもあります。
ご自身のマンションの特徴などを踏まえながら、組合員がより納得感が得られる方法を検討してみましょう。