大規模修繕の進め方!すべき事とやってはいけない注意点
大規模修繕工事は、その名が示す通り、工事範囲や規模がマンションで行う工事の中で最も大きなものです。
小さな設備・備品の不具合や破損とは異なり、今日、明日にどうこうといったスピード対応をするものではなく、長い期間をかけて、工事の範囲や金額、実施業者、仕様を詰めて検討していくものです。
そのため、大規模修繕工事の検討は決めることが多すぎて、何から手を付けていいかも分からず、横道にそれやすいものでもあります。
そこで今回は大規模修繕工事の上手な進め方と注意点について紹介します。
最初に決めるべきはスケジュール
大規模修繕工事の検討を始めるにあたって、最初に決めるべきは、スケジュール(期限)です。これは管理会社が大枠を決めればいいでしょう。
ではなぜスケジュール(期限)が重要になるかというと(検討委員会や理事会に大規模修繕工事に精通しているような専門職の方や知識を持っている方がいれば別ですが)、多くの場合は大規模修繕工事の実施が初めての方や以前自身が住んでいたマンションで経験した方がいるぐらいで、大規模修繕に明るくない方が多いのが実情です。
そのため、どこを直したい、どこを変えたいと言い始めても収拾がつかず、時間だけを浪費します。
まずは検討するスケジュールを決めて、いつの集会(総会)で工事について決定するかを決めることから始めるべきです。
場合によっては、前年の総会で「平成○年○月開催の集会(総会)にて大規模修繕工事の実施についての議案を審議します」といった議案を審議し、集会(総会)決議することでそのスケジュール感を周知しておくことも有効です。
その期限から逆算して、いつまでに理事会にて最終案をまとめる必要があるのか、いつまでに仕様を決定する必要があるのかを検討していきます。
修繕委員会の設立する
スケジュールが決まれば、審議検討の体制を整備します。具体的には、修繕委員会、検討委員会の設立がこれに当たります。
マンションによっても異なりますが、小規模マンションであれば、理事会を中心に大規模修繕工事の検討をしても時間的にも、合意形成のための業務的な負担もあまりないかもしれません。
しかし、中規模(70~80戸程度)、大規模(100戸超)で大規模修繕工事を検討していくとなると、居住者の意見や考え方もその分多岐にわたり、大きな負担がかかってきます。
そのため、理事会の諮問機関として大規模修繕工事を検討するための組織である検討委員会、修繕委員会の設立が効率的となる場合があります。
その際には、理事会の役員以外で専門知識を有している方やマンションの管理組合活動を熱心に、かつ積極的に参加してくれる方、場合によっては過去の経験を踏まえ、理事会役員経験者に加わってもらう等、円滑な運営のために加わってもらうことが好ましいです。
また一長一短ありますが、その時の理事会役員も加わってもらうことも必要になる場合があります。
※修繕委員を募集しても集まらないケースもありますので、その場合は理事会主体で進めていきましょう。
あるマンションでの修繕委員会設立の失敗事例
あるマンションでは、理事会の諮問機関である修繕委員会での審議が白熱し、大規模修繕工事の内容はもちろん、過去の管理組合活動のあり方そのものにも言及してしまいました。
修繕委員会があらゆる方面に越権してきたため、『理事会 対 修繕委員会』という構図が作られてしまったのです。
そのため、本来の大規模修繕工事の決議にも余計な時間と労力がかかりました。また修繕委員会が理事会の諮問機関でもあったため、当時の理事会の運営にも指摘をするような事態にまで発展しました。
これは稀有な例ではありますが、理事会役員が理事会との橋渡しをうまく行い、2つの組織を円滑に運営することが重要となります。
また、修繕委員会は常に審議した内容を理事会へオープンにし、理事会は必要に応じて全戸へ発信していくことも重要です。
管理会社にとっての大規模修繕
大規模修繕工事は、管理組合にとって最も重要な工事であることは言うまでもありませんが、大規模修繕工事は管理会社にとっても、喉から手が出るほど受注したい大きな仕事の一つです。
小規模な修繕工事では、防水業者、塗装業者、足場の設置解体業者、清掃業者・・・とあらゆる専門分野に分かれていても、大規模修繕工事はそれらを一括して受注できる大きな機会となります。二次受け、三次受けも当然にあります。
そのため、経費も大きくなり、支払う費用も大きくなります。管理会社にとって最大きな利益の柱となる仕事と言えます。
大規模修繕工事の見積もり取得
スケジュール決定後、建物診断を行い、(場合によっては建物診断を行わないで)どこをどのように直すかを考えるにあたって管理組合は見積もりの取得を行います。
多くの場合、管理会社もしくは管理会社系列(提携)の業者の提案があります。それは検討の支柱となりますが、その際にも取得した見積りとは別に「金額を伏せた上で」同じ仕様でもう1、2社は見積もりを取得します。
それは比較対象となるだけではなく、相場観を知る材料となります。その際には、取得した見積り金額を「必ず伏せた上で」が重要です。
それが結果的に、各修繕業者の修繕への積極性を図る基準となります。
施工会社サーチなら、大規模修繕に積極的かつ、管理組合主体で進める大規模修繕のサポートを得意としている施工会社が見つかりますので、ぜひ活用してみて下さい。
施工会社の選定には縁故関係は入れない
施工業者の選定にあたって、居住者の縁故で施工業者を紹介される場合があります。これははっきり言っておすすめしません。
誰もが知っているような、社会的信頼もあるような業者であれば別ですが、それ以外の場合、万が一何かあった場合、縁故での紹介による責任を感じる場合があります。
また、比較検討した結果、それ以外の業者に決定した場合、心理的に断りづらかったり、説明を求められたりする場合があります。そのあたりをクリアしたうえで選定するのであれば、工事費用面等相談はしやすくなるかもしれません。
また、大規模修繕工事は、マンションの資産価値にも直接関わってくる大きな工事です。安ければ良いというわけではないことを常に頭に置いておく必要があります。
あるマンションでは大規模修繕工事時に金額重視で検討をすすめ、工事完了後2年で工事業者が倒産し、アフターサービスも一切ない状態になったケースもあります。保険や完成保証なども確認すべきです。
大規模修繕工事の施工中に注意すべきこと
大規模修繕工事の仕様や業者スケジュールが決定したら総会で決議し、施工会社と請負契約を締結します。
いよいよ施工を迎え、着工しますが、大規模修繕工事を円滑に進めるには何に注意したらよいでしょうか?
1.施工中のクレームを防止する
大規模修繕工事の施工中最も多いクレームは『音』と『臭い』です。
マンションで2回目、3回目の大規模修繕工事であれば、すでにマンションの居住者もある程度認識していることもあります。
しかし、初めての大規模修繕工事の場合、工事の仕様や範囲にもよりますが、バルコニーの外に足場が組まれ、メッシュシートで視界は遮られ、不得意多数の作業者がマンション内を行き来した挙句に、これまで室内で聞いたことのないような騒音が響き、臭気が鼻を突きます。
主には足場の設置解体や防水の施工、塗装工事等必要工事であることは間違いありませんが、それでも非日常的な環境が数か月にわたることもあります。
そのため、施工前の施工説明会や施工中の告知活動、作業内容の案内は、工事の内容を知ること以上にクレーム対策の一環としても丁寧すぎるぐらいしておく必要があります。
管理組合活動として大規模修繕工事に際しては積極的な広報をしておくことが、クレームの防止につながるとも言えます。
施工業者は工事の受注者としての責任を当然負いますが、管理組合はその施工業者の発注者としての責任があります。裏を返せば施工を円滑に進めるべく協力できる体制を整えておくことは管理組合業務となります。
2.毎月の施工状況を確認する
騒音や作業の進め方だけでなく、施工前と比べて施工後よくなったか、不備がないかを「所有者」として監視する必要があります。
そのため理事会もしくは検討委員会では、毎月施工状況の報告を受けるよう努め、その確認を行う必要があります。
施工スケジュールによっては、作業の進め方や順序が変わったり、事前の調査よりも施工を進めたところ、状態が良かったり(場合によっては悪かったり)することもあります。
その場合の清算の有無や追加工事の必要性についても常に確認しておきます。その確認作業が施工業者の姿勢を正すことになります。
3.施工後こそ「所有者」意識を持つ
また、施工後のアフターサービスを施工前には確認し、理事会や検討委員会から居住者への施工時や施工後のアンケートを実施し、小さな意見も集約したうえで施工業者へ対応を依頼します。
修繕直後は見た目も状態も良いため問題が起きることはほぼありません。しかし、3か月後や半年、1年後に予期せぬ経過が現れることもあります。問題発生に迅速に対応できるように大規模修繕瑕疵保険に加入しておくことも1つの手です。
大規模修繕工事は、その期間に工事を「施工する」ことを契約しているのではありません。マンションの「維持修繕」を契約しています。施工後の管理体制についても十分に確認して下さい。
大規模修繕工事の進め方のまとめ
検討から実施、その先の実施後まで、大規模修繕の主体は管理組合です。管理会社やコンサルタントはマンションに住んでいるわけではありません。
マンションはご自身の資産です。そして、修繕積立金は自身が管理組合へ積み立てている貯金として考えてみてください。
国交省の調査により、すでに多くのマンションで修繕積立金が不足していることがわかっています。マンションの将来も見据え、しっかりと計画、検討していくことが大切です。