エレベーターのメンテナンスや補修、リニューアル工事はどのように進めればいいのか?
高層マンションや近年竣工したマンションには必ず設置されているエレベーターですが、毎日使用することもあり、他の共用部分同様、経年により劣化が進行します。
そのため、普段のメンテナンスに加え、補修やリニューアルも必要になってきます。
更に長期修繕計画や修繕積立金を考えながら、計画的に補修やリニューアルのタイミングを検討しなければなりません。
エレベーターメーカーの技術進歩により、年々高性能化してきているエレベーターですが、メンテナンスや補修、リニューアル等工事の場合にはどのような点に注意していけばいいのでしょうか。
今回はエレベーターの補修やリニューアルについて確認していきます。
エレベーターの種類
エレベーターの補修やリニューアルについて触れる前に、エレベーターの種類にはどのようなものがあるのか見ておきましょう。
エレベーターはおもにロープ式と、油圧式があり、それ以外の駆動で動く方式に大別されます。
また、その他の駆動方式として、リニアモーター式や、水圧式といった駆動方式のものがあります。
ロープ式エレベーター
その名の通り、ロープを使ってエレベーターのかごを上げ下げするタイプのものです。
※(社)日本エレベーター協会 トラクション式[機械室ありタイプ]より引用
画像にあるのは、上部に機械室を設けるタイプのものであり、「かご」と「釣合おもり」の重量をバランスさせ、上部に取り付けた巻上機で効率よく駆動する、エレベーターのもっとも基本的なタイプとなります。
システム構成も簡単で、低層ビルから超高層ビルまであらゆる場面で活躍している一般的なエレベーターのタイプと言えるでしょう。
おもりによりモーターの負荷が軽減されたり、昇降速度が後述する油圧式より速い、電気代が割安になる反面、建物上部に機械室を設置するスペースが必要になったり、積載重量によっては建物上部に負担がかかるなどのデメリットがあります。
油圧式エレベーター
エレベーターの昇降路下部に機械室を設け、パワーユニットで油を油圧ジャッキに注入してかごを昇降させる方式です。
※(社)日本エレベーター協会 油圧式 直接式 より引用
油圧パワーユニット、油圧ジャッキ、かごで構成されており、屋上機械室の設置が不要となります。
また積載力が大きい為、比較的重量がある荷物の運搬も可能になります。
油圧式は下からの押し上げのため積載量が重くても建物上部に負担がかからない一方で、ロープ式よりも速度が遅く、また消費電力が多いなどのデメリットが考えられるでしょう。
エレベーターにおける通常のメンテナンス
エレベーターにおけるメンテナンス方法として、POG契約とFM契約によるものが一般的です。
それぞれどのような特徴を有するのか確認したいと思います。
POG契約とその内容
POG契約におけるPOGとは、「パーツ(P)・オイル(O)・グリス(G)」のそれぞれ略であり、通常の簡単なエレベーター点検を目的として契約するメンテナンス契約です。
具体的には、エレベーターの各部の定期点検や、対象範囲における消耗品の交換を含む契約となります。
対象となる消耗品はおもに、ヒューズ類やボルト、かごの内部の蛍光灯やマシン油、グリスなどが対象となり、次のFM契約に含まれるようなメンテナンスは対象外となります。
そのため、最低限のメンテナンス対応のため、コスト的に抑えられる反面、追加でメンテナンスが必要になった場合には追加コストが発生する可能性があるでしょう。
FM(フルメンテナンス)契約とその内容
FM契約とは、通常利用において発生する消耗品、部品の交換や修理を含んだ契約のことを言います。
エレベーターのすべての装置の点検や、24時間対応、調整・給油個所として、巻上機や受電盤・制御盤、昇降路及びピット内装置など、エレベーター全般的な箇所に及びます。
また、工事の内容としては、主に調整・給油個所と同様の修理も可能となっている場合もあり、細かなメンテナンスに対応しているといえるでしょう。
このように、POG契約と比べて充実した点検が含まれ、計画的に予算が見積もれる反面、費用の面ではPOG契約よりも割高になる傾向があります。
それぞれの注意点
POG契約とFM契約については、これまで記載した通り、費用対効果の観点で考えていく必要があります。
新築のマンションでエレベーターの故障が考えられない、またはリニューアル直後でありメーカーの保証期間内であるものに対しては、POG契約の範囲内で暫くは問題ない可能性もあります。
また一方で、経年マンションで、既に大規模な補修やリニューアルが必要になる場合に、今後の工事があるので最低限のPOG契約で考えるか、少しでもエレベーターを延命させるためにFM契約で行っていくかなど、その状態も加味しながら考えていく必要があるでしょう。
なお、双方の方法によらず、建築基準法による昇降機等定期検査は、おおむね6ヶ月~1年の間で特定行政庁が定める時期に行う必要があります。
エレベーターの補修工事とリニューアル工事
メンテナンスでエレベーターを延命させたとしても、かごや機器類の限界が来る可能性があるでしょう。
そのような場合においては、一部の器具の交換等の補修工事を行うか、全面的にエレベーター設備を取り換えるリニューアル工事を行う必要があります。
国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」によると、エレベーター(昇降機)設備における補修工事は12~15年周期、取替(リニューアル)工事は26~30年周期にて実施することが推奨されています。
具体的にどのような工事を検討しなければならないのか、確認してみましょう。
補修工事とその内容
同じく、「長期修繕計画作成ガイドライン」によると、エレベーターの補修対象として、かご内装、扉、三方枠等が挙げられています。
三方枠とは、エレベーター扉の開閉部分の枠のことで、上部と左右の三面に取り付ける枠材のことを指します。
普段から乗降する際に住民が使用していて触れているところが該当しますが、使用に従って劣化してくる箇所でもあるでしょう。
通常のメンテナンスでは対応できないものの、この場合はリニューアル工事までには及ばず、補修工事という対応でエレベーターを補修する形になります。
エレベーターリニューアル工事に比べて割安であり、工期的にも短く1週間前後で出来る反面、古いエレベーターになると最新の法規に対応できない場合があったり、交換しない部分について、リニューアルまでの間に劣化して追加補修をしなければならない可能性もあります。
準撤去リニューアル工事とその内容
エレベーターのリニューアル工事には、部分的に部品を取り換えて使用できるところはそのまま使用する準撤去リニューアル工事と、全面的に取り換える全撤去リニューアル工事と、に分けられます。
準撤去リニューアル工事は、巻上機、制御版、ロープ、カゴ、扉などを現行法に対応させるために交換する工事が中心であり、工期も全撤去ほどではなく、費用も数百万円台で実施することも可能です。
また建築確認申請の届出が場合によっては不要であり、費用も後述する全撤去リニューアルほどかからない点が挙げられます。
反面、使用できる部分は引き続き使用するスタイルである事から、エレベーターメーカーを変更することが出来ないことが挙げられます。
全撤去リニューアル工事とその内容
エレベーターを全面的に取り換える工事であり、これまで記載した方法に対して、メリットやデメリットが更に明確になります。
全てが新しくなることで更に長年使用出来る事や、最新の法規に対応可能です。さらに、これまで使用していたメーカーではない、他メーカーへのエレベーターの切り替えも可能となるでしょう。
反面、費用が1基当たり1,000~1,500万円程度と高く、また工期も長いため、住民がエレベーターを使用できない期間が長くなることが挙げられます。
さらに、工事期間中の日中は、騒音や振動の問題が発生し、エレベーター近くの住民は過ごしにくいことが挙げられます。
まとめ
日々のメンテナンスから、補修工事、そして全撤去リニューアル工事に至るまで、エレベーターに関する修繕全般について見てきました。
マンションの経年や、エレベーターの使用年数によってもどの方法で対応するか変わってきますし、長年使用している場合には、メーカーの部品が生産終了になっていたり、在庫が既になかったり、更には修理対応期間が終了していることも考えられます。
それらを総合的に検討しながらどの方法で対応するかを、長期修繕計画や修繕積立金をもとに検討していくことが求められます。