長期修繕計画の必要性と作成手順
マンションに長年住んでいると、所々に経年劣化していくのが目立ってきます。
新築から10年を越えてくると、所々に漏水のあとやひび割れ、さび等の劣化が出て来ることにも気づくかと思います。
昔は「マンションからいつかは戸建て」という時代もありましたが、今やマンションも終の棲家となるのが当たり前の時代になってきました。
※平成30年 国土交通省「マンション総合調査」 永住意識より
将来劣化してくることを想定しながら計画的に修繕を検討していく必要があり、そのよりどころとなるのが、長期修繕計画であるともいえます。
今回はその必要性とともに、作成のポイント、そして作成した後の運用方法について触れて行きたいと思います。
長期修繕計画とは
長期修繕計画とは、どのような計画となるのでしょうか。国土交通省令和3年9月改訂版の「長期修繕計画作成ガイドライン」によると、「将来予想される修繕工事等を計画し、必要な費用を算出し、月々の修繕積立金を設定するために作成するもの」とあります。
具体的にこれはなぜ重要なのか、そしてどのように作成、見直していけばいいのか、また作成するにあたり注意するポイント等も考えていきます。
長期修繕計画の重要性
長期的にマンションの快適な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るためには、建物等の経年劣化に対して適時適切な修繕工事等を行うことが重要です。
そのためには、長期的な視野でマンションの修繕を行うための適切な長期修繕計画を作成し、そしてこれに基づいた修繕積立金の額を設定し、区分所有者全員で積み立てていくことが重要になってきます。
改正マンション管理適正化法への対応
令和4年4月から施行された、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)」を受けて、地方公共団体によるマンション管理適正化の推進や、マンションの管理計画認定制度が創設されることとなりました。
それに伴って、長期修繕計画は認定基準において、適切なものが作成されているかのチェックの的にもなっており、適切な作成とともに運用が重要とされるようになっています。
長期修繕計画の作成や見直しのタイミング
長期修繕計画を作成することは勿論ですが、継続的に見直しすることが大切です。
作成のタイミングとしては、大規模修繕工事の実施前後にマンション全体の状態が洗い出されるので、そのタイミングに合わせて作成することが望ましいと考えます。
また、建設当初に一度作成したものがそのままになっている場合、修繕積立金の状況や、劣化の状況を照らして、時代の要請と乖離していることも多くあります。
竣工時に開発会社が作成していることは通常なのですが、定期的な見直しを図っていく必要があります。
作成は30年以上の計画があるもので、その中に大規模修繕工事が2回以上含まれ、見直しは5年程度ごとに実施していくことが、長期修繕計画ガイドラインでも記載されています。
長期修繕計画の作成
それでは長期修繕計画はどのようなことに注意しながら作成していけばいいのでしょうか。
調査や診断、修繕すべき箇所の周期や金額面における把握が重要となりますので、順にみていきたいと思います。
現況調査や診断の実施
まずは何といってもマンションがどのような状態になっているのか、現況調査や診断を行って現状把握をしていくことから始まります。
直近で修繕していく必要がある箇所なのか、次回の大規模修繕工事やそれ以降の工事でも問題ない箇所なのか、現時点で確認できる内容を洗い出すことから始まると考えられます。
ここで大切なのが過去の修繕記録を確認していくことでしょう。これまでどのような周期で修繕が実施されてきたのか、また後述しますが、修繕周期と照らして乖離していないのかなどの確認も重要となります。
修繕周期の確認
その修繕周期ですが、修繕工事項目ごとにどのタイミングで実施すべきか確認し、計画に織り込んでいく必要があります。
※国土交通省「長期修繕ガイドライン」修繕周期の例より
修繕費の算出と修繕積立金の予測
いつ、どの項目を修繕するかが明確になったら、その次にそれらを行うための修繕費用は果たしていくらなのかを、推定修繕工事費として洗い出す必要があります。
推定工事費の算出方法として、どの工事をどれだけ行うのかの数量と単価を見積もっていく必要があります。
数量はとりわけ既存マンションの場合は、分譲会社から引き渡された設計図書のほか、保管している修繕等の履歴、現状の調査・診断の結果などを参考として、長期修繕計画用に概算の数量を算出する必要があるでしょう。
また単価は、同じく既存マンションの場合は、過去の計画修繕工事の契約実績、その調査データ、刊行物の単価、専門工事業者の見積価格等を参考として設定します。
単価には地域差があることから、これを考慮することも重要です。
長期修繕計画の運用と評価
先にも少し触れましたが、長期修繕計画は作成して終了ではほぼその役割は果たさないと考えられます。
平成30年度の国土交通省によるマンション総合調査によれば、長期修繕計画の見直しは以下のような傾向にありました。
※平成30年 国土交通省「マンション総合調査」 長期修繕計画の見直し時期より
先述のとおり、長期修繕計画ガイドラインで求められているのは、5年を目安に見直すことが推奨されていますが、その対応を行っているのは56.3%と半数強に留まっており、作成後は次回の修繕工事まで見直されていない傾向も見られます。
以下、計画の見直しとともに、重要と考えられる対応事項を記載したいと思います。
日々の点検やチェック体制の整備
長期修繕計画に沿っての日々の設備の点検や整備すべき事項のチェックは、理事会と管理会社が連携して行っていくことが望まれます。
このチェック機能が働くか働かないかで、マンションの管理の状態が大きく変わって来ることとなりますので、非常に重要な機能となります。
年次の総会は勿論のこと、定期的に理事会にて長期修繕計画に対する現状を照らすことで、大きな乖離が出ていないかの確認が重要となります。
エレベータ設備の保全計画
高層階があるマンションにおいてのほとんどがエレベータを設置しているかと思います。またほとんどの住民がエレベータを使用することでしょう。
日々のメンテナンスに加えて、前項で取り上げました修繕周期の中でも、補修は12~15年、そして取替は26~30年の間で検討する必要があります。
また、補修のための部品の製造がメーカー側で終了していることも考えられるため、取替タイミングが来る前に取替なければならないことも場合によってはあるかもしれません。
マンション側の事情だけではなく、メーカー側の事情等、理事会内でキャッチアップしておくことも重要です。
専用使用部分における維持管理
窓ガラスや窓枠、玄関扉、バルコニーやルーフバルコニーは、専用部分を使用する区分所有者が単独で利用する共用部分とされており、その維持管理における利用者の日々の清掃やメンテナンス等の責任があります。
故意に区分所有者が破損をさせた場合は区分所有者の責任で修繕をしなければならない場合もありますし、また故意ではないにせよ、物が飛んできて窓ガラスが割れてしまったなどの場合は、管理組合と連携しながら修復しなければなりません。
そのような場所の維持管理は、管理組合や理事会では目が行き届かないので、区分所有者それぞれの責任において維持管理していくことが重要になってきます。
まとめ
長期修繕計画の重要性と作成、さらには作成後の対応について記載しました。
とりわけ最初に作成をした長期修繕計画から、計画的に見直しを行い、新たな計画としてブラッシュアップしていくことが法整備の中で重要視されてきています。
計画を立て、そして定期的に見直し、修繕すべき所は計画的に対応していく、その好循環サイクルがマンションの維持管理向上に寄与するでしょう。